什器破壊業事件 海野十三

今日は海野十三の「什器破壊業事件」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
この「什器破壊業事件」は、リレー小説「風間光枝探偵日記」シリーズのなかのひとつの短編小説です。そのため最初の数行だけ読みにくいんですけど、この作品だけを読んでもまったく問題無く読める物語です。今回は、探偵の風間光枝かざまみつえが主人公の、架空の物語で、明らかに子ども向けの空想小説なんですけど、科学技術の描写があったりしておもしろいです。入口を通ると身長を自動で測って極薄のモニターに表示する装置だとか、そういえば現代のコンビニには防犯目的で、入口に身長が分かるシールが貼られていて防犯カメラで判別できるようにしてる、よなと思いました。
 
 
50年以上前に空想されていたことが、今ではごくふつうに、町中のいたるところで実用化されてるんだなあーと、思います。
 
 
これはじっさいの1939年とは完全に違う、近未来的な世界が描かれているんですけど、でもこの時代にこういうことをみんなで考えて楽しんでいたのは事実で、こういう娯楽があったんだなあとつくづく思いました。
 
 
成金の屋敷に、女探偵が小間使いに化けて潜入するんです。主人公は、事情をまったく知らされずに、危険な仕事をやらされる。真相は現場で少しずつ解明されてゆく。当時は、殺人事件の報道禁止といった世相があったんです。海野十三はそういうことを知りつつ物語に反映させて書いたのだろうか、と思いました。
 
 
死んでしまった男が発見した事実を、探偵たちはなんとか掘り起こそうとしていた。1939年に、国家によって隠蔽されたかずかずの事件と、海野十三の提示する謎は、どこか結びついているのではないか、と空想しました。
 
 

 
 
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赤い部屋 江戸川乱歩

今日は江戸川乱歩の「赤い部屋」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
このまえ、小酒井不木の恐怖小説を紹介したので、こんどは不木がデビュー時に絶賛した江戸川乱歩を読んでみたいと思います。娯楽小説の金字塔である乱歩の著書が、パブリックドメインになっていて0円で読めるというのはちょっと衝撃です。
 
 
乱歩は退屈に冒された主人公たちを描きだすんです。なんかこう現代では、退屈する人と忙しい人で、両極端だなと思いながら、乱歩の「赤い部屋」を読んでいたんですけど、乱歩のこの記述が異様なほど印象に残りました。本文に、こう記されているんです。
 
 
  「それはもう、お前の退屈していることは、今更いまさら聞かなくてもよく分っているのだ」
 
 
このセリフが、脳内に幾度もリフレインされました。彼らは退屈しのぎに、刺激的な告白をし始めるわけです。それで、物語が本題に入ると……。最近ではマンガでしか見ないような烈しい残酷描写にギョッとしました。
 
 
どうしてこの男は、あまたの人を危めてしまったのか、という謎の発端となった事件を描いているのですが、これがとたんにリアルなんです。こういう経験を、した人は多いはずだという物語なんです。殺人に積極的に関わったと言うよりも、配慮が足りずに、困窮者を見殺しにしてしまったという描写が挺然としていて身に迫るものがあるんです。なんだか、悪を吸いこむ洞穴のような物語でした。いったい誰が、なぜ……という謎を追いつづけた、乱歩のまなざしが冴える短編でした。
 
 

 
 
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微笑 横光利一

今日は横光利一の「微笑」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
これすごい作品なんです。戦後のGHQ支配下に、こういうものを書ききったのがすごい、という、戦争が終わってるのに、戦争のみを書いた作品です。あのー、水木しげる大先生も貸本漫画で、戦後に連合艦隊の激戦とかそういうのを書いていたそうです。当時は、そういうのがまだ大人気だったそうなんです。敗戦後しばらくはそういう感じだったそうです。
 
 
自分は敗戦後の数年間で小説家がどう変化したのかに興味があるんですけど、横光利一は、戦争が終わってから、戦争が終わってない、という小説を書いた。内容も支離滅裂な軍国主義者の、えぐいもので、なにかこう、ラブクラフトの暗黒神話とか、井伏鱒二の「黒い雨」に登場する、戦後の市営バスを戦車と勘違いして、ハリボテの爆弾で爆破しようとする、頭のおかしい青年のことを思いだしました。
 
 
この「微笑」は細部がこう興味深くて、自宅に表札をかけてもかけても、いくらクギでしっかり打ちつけても、ぜんぶ盗まれてしまうとか、そういえば物不足だった戦後には、学校のプールにある鉄フタを盗まれ続けたという事実があったそうですし、法律違反の闇市で食糧を買わなければ餓死した時代だそうですし……。作中に、右翼と左翼の争いのことがこう記されています。
 
  
  母の実家が代代の勤皇家であるところへ、父が左翼で獄に入ったため、籍もろとも実家の方が栖方母子二人を奪い返してしまった
 
  勤皇と左翼の争いは、日本の中心問題で、触れれば、忽ち物狂わしい渦巻に巻き襲われる
 
 
敗戦直後には、左翼が牢屋から出て来て自由になって日本共産党が再建したりして、左傾化しかけたようなところがあると思うんですけど、レッドパージのはじまるのが、この小説が出た3年後くらいなので、すごく時代を読んでるなあーと思いました。作中にも記されているのですが、横光利一はなぜか、戦後すぐに、排中律のことを中心的に書いているようなので、ありました。辞書では「排中律」のことを、こう説明しています。
 
 
はいちゅうりつ【排中律】 〔principle of excluded middle〕論理学の基本原理の一。「P∨-P」すなわち P であるか,または P でないかのいずれかであることを主張する論理法則。ある命題は真であるか偽であるかのいずれかであり,中間の可能性が排除されるところからこの名前がある。この論理は標準的な古典論理では成立するが,直観主義論理ではその一般的妥当性が否定される。伝統的論理学では,矛盾律・同一律とともに三大原理の一とされる。排中原理。排中法。(大辞林 三省堂)より

排中原理 (law of excluded middle)思考の法則の一。一般的には「AはBでも非Bでもないものではない」という形式をもち、Bと非Bとの間には中間の第三者はありえない、ということで、矛盾原理を補足するもの。未来事象に関する命題については真でも偽でもない第三の可能性を認めざるをえず、ここから記号論理学では多価論理学の特色として排中原理を認めない場合がある。排中律。不容間位律。(広辞苑 / 株式会社岩波書店)より
 
 
排中律の感覚は、日本の文化に相応しくないし、その対極にあるのはアルカイックスマイルとも言われる、日本の微笑なんだということを、横光利一が描いているように思いました。もし日本が戦中に、アメリカやソ連よりぜんぜん先に、原爆以上に破壊力のある中性子爆弾のような光線兵器を作ってしまっていたら、その作者である日本人はどうなっていたか、ということを小説にしています。現実に於いては、毒ガスの製造が戦中は大々的に行われていて、今でもその遺構が日本の島に残されているわけなんですが……。作中で主人公は、この新兵器について、見ないに越したことは無い、と危険な情報は得ないほうが得策だと、そう考えるんですよ。これはまさにそうだなあ、と思います。横光利一は、高性能すぎる兵器を作ってしまった者は、負ければ裁かれ、勝っても口封じで殺されてしまうだろうと、いう予想を立てます。結末は、史実と共鳴した内容なのですが、やはり驚きをもって読み終えました。
 
 
空襲で偶然にも生き残った少年の姿を描き出したかのような、雪崩を逃れた少年の話が、すごく良かったです。作中のこの文章が印象に残りました。
 
 
 ……
 ふと、どうしてこんなとき人は空を見上げるものだろうか、と梶は思った。それは生理的に実に自然に空を見上げているのだった。円い、何もない、ふかぶかとした空を
 
 

 
 
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新妻の手記 豊島与志雄

今日は豊島与志雄の「新妻の手記」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
これは、昭和20年代の家庭生活を描いた物語です。事件が起きるような小説では無く、ゆるやかな物語で、その分リアルだなと思いました。最近、結婚の話題を新聞記事で読んで、ちょっと古い人の結婚に関する本を読みたくなって、青空文庫でこの小説を見つけました。
 
 
主人公は女学校出身の若い女で、新しい母とのちょっと不思議な交流がある。いっけん冷たいような義理の母に、やさしいところがある。しかし夫の家には少し堅苦しく奇妙な親戚が居て……。母の長年続けてきた仕事に、大きな変化が訪れる。この一文が印象に残りました。
 
 
  思えば、表面は全く平穏無事で、何の風波もなかった。然し、母の心の中には、さまざまな暴風雨が荒れたことだろうと、私は自分の心中を顧みながら、推察するのである。
 
 
結末の、主人公が母に抱く感情描写が良いんですよ。くわしくは、本文を読んでみてください。
 
 

 
 
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鳥 横光利一

今日は横光利一 の「鳥」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
これは横光利一にしてはくだけた文体で、自分のことをバカだとおもっている主人公が書いたようにしるしてあって、リカ子とQと「私」との三角関係のことが描かれています。星新一の小説でも読んでいる気分で読みました。
 
 
妻だったリカ子をQに奪われた「私」は、それを「彼にリカ子を与えたのだ」などと考え出す始末で、どうも頭のネジがいっぽん抜けている。科学の研究をしながら美女との恋愛がからんでゆくという話なんです。「私」はリカ子と結婚したばかりだったのに、なぜかQとの友人関係のほうがクローズアップされる。とにかくどうも目の付けどころが変なんです。Qっていったいなんなんだ、と思えてきます。この小説のタイトルもなぜ「鳥」なのか。いったいいつになったらバードが出てくるのかも、ちっとも判らない。本文にはこう記されています。3つほど抜粋してみます。
 
 
  一言の争いにも彼女はしまいにQの名を出し、独りいる時は絶えず紙の上へQの名を書き、睡眠の時の囈言にもQの名を呼び始めた。

  実はリカ子もQを愛しており、Qもリカ子を愛していたのだと分ってみると、私の狼狽の仕方はもう穴ばかり捜して隠れることよりなくなり出した。かつてのQの美徳のためになされた私達の結婚が、これほども私に不幸を与えたことを私は歎き続けた。
 
  私はリカ子の顔を見せられる度毎に、私とQとの美徳を押し合う悪徳について考えずにはいられなかった。しかもリカ子は私を愛していないにも拘らず、私を憐れむ姿に愛情の大きさをさえ含めなければならぬのだ。
 
  AとQとは、この二人の闘いならどこまでいってもAが勝ち続けるに定っているのだ。その度にリカ子がQを軽蔑するなら、――私はリカ子をQに返したことは彼と彼女とのためには最大の悪徳でさえあったことに気がついた。
 
 
なにがなにやらわからない、マグリットの絵を見ているようなめくるめく短編小説です。
 
 

 
 
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処刑の話 フランツ・カフカ

今日はフランツ・カフカの「処刑の話」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
これはカフカ作品の中でも不条理さが徹底していて、かなり不気味なもので、ダークな小説が好きな人なら確実に引き込まれる内容だと思います。このほかに「変身」や「」があります。
 
 
癌治療という名目で、長生きできるはずの子どもたちを次々に殺してしまう最先端の病院というのが、作中の無慈悲で無思考な軍人の姿とオーバーラップしました。カフカは記します。
 
 
 旅人は考えた。
 よその国の事情に大きく介入するとなると、たいへん慎重にならなければならない。
 自分はこの流刑地の住民でもなければ、この流刑地の宗主たる国の国民でもない。
 もしこの処刑を厳しく非難したり、実際に妨害したりしようものなら、こう言われるに違いない。
 このよそ者が、黙ってろ。
 
 
続けてカフカはこう書くんです。この制度が不当で、この処刑が非人道的であることは、疑いようのないことだ。
 
 
カフカは「旅人」のみが持つ独特な距離感と倫理性をあざやかに描きだします。三好達治の詩の一節「されど 汝(なれ)は旅人 旅人よ 木蔭に憩え 冷たき石にも 憩えかし」を思いだしました。
 
 
物語の中盤、旅人がいったいどう行動するのか判らず、固唾をのむシーンがあって引き込まれました。
 
 

 
 
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渦巻ける烏の群 黒島伝治

今日は黒島伝治の「渦巻ける烏の群」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
これは農民や労働者を描き続けた黒島伝治が、シベリアでの戦争状態を描いたものです。黒島伝治は、21歳でシベリア出兵に参加させられた現実を元に、戦争文学を記してゆきます。とうぜん反戦が土台となった作品なんですが、とにかく現実をもとにして描いているので、込み入った内容になっています。ほんとうにごく普通にこれまで、農業を続けてこられた人びとが、いきなり戦地に強制連行されて、武器を持たされて、言葉もほとんど通じない相手を前にして、飢えと冷害に苦悶します。
 
 
戦争文学を読むのはむつかしいという方は、「水木しげるのラバウル戦記」が読みやすくおすすめですので、ぜひどうぞ。
 
 
黒島伝治は、漱石や鴎外と比べてしまうとあきらかに小説が上手くないんですけど、しかし実際の体験が見えてくる描写なので、読み応えのある作品だと思います。十五年戦争での死因の最大のものは、従軍中の餓死で、非常に多くの人々が農家から強制的に連れてゆかれて、戦地で餓え死にせざるを得なかった、ということを俳人の金子兜太氏をはじめとしてあらゆる戦争体験をした方々が書き記しています。本文が、伏せ字となっていますが、黒島伝治はこう記します。
 
 
  誰のために彼等はこういうところで雪に埋れていなければならないだろう。それは自分のためでもなければ親のためでもないのだ。懐手をして、彼等を酷使していた者どものためだ。それは、××××なのだ。
 
それから、凍死する寸前の男を描写しながら、こう記します。
 
  何故、シベリアへ来なければならなかったか。それは、だれによこされたのか? そういうことは、勿論、雲の上にかくれて彼等、には分らなかった。
 われわれは、シベリアへ来たくなかったのだ。むりやりに来させられたのだ。――それすら、彼等は、今、殆んど忘れかけていた。
 彼等の思っていることは、死にたくない。どうにかして雪の中から逃がれて、生きていたい。ただそればかりであった。
 



 
 
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