明日の言葉 宮本百合子

 
 今日は宮本百合子の「明日の言葉 ――ルポルタージュの問題――」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
これまで、明かりの本では子どものための本と、一般によく読まれている本を紹介してきたのですが、これから少し、やや難解なものも紹介してゆこうかと思います。主に戦中戦後の激動期の言論ということを紹介してゆきます。
 
 
 それで、なるべく安定的な紹介が出来るように、戦中に大きな危機に直面しながら作家活動を継続し、戦後に長く文学創作を続けられた中野重治氏(1902年 – 1979年)の文学論を参照しながら、戦中戦後の出来事を紹介してゆければと思います。中野重治氏は、世界的作家の講演にて「私たちの父親の世代と、私たちの世代でもっとも大きい作家で、もっとも優れた人間が誰だと言えばそれが中野重治さんです」と述べられるほど、評価の高い作家なんです。中野重治さんは20代で詩人となり、それから児童文学・小説・評論と幅広く活躍なさった方です。
 
 
 この宮本百合子の「明日の言葉 ――ルポルタージュの問題――」が書かれたのは1937年の出来事なんです。戦争が終わる8年前です。この頃に治安維持法や保護観察法という、恐怖政治を象徴するような酷い法律が成立します。当然、過去においても現代においても、負ける側は民意を反映しない国家なのですが、自由意志を持つ人びとは大変な規制を受けていた時代で、小林多喜二や戸坂潤が戦後を迎えられる前に亡くなられています。この時代に、宮本百合子と中野重治氏は相談をしあって、これからどのように文学活動と政府批判をやって行くかと言うことを考えていた。正確に引用してみます。


わが生涯と文学/中野重治 より (P13-14)

     これは私個人のことについて言うので一般に言うのではない。一つには、戦争との関係で小説の類が書きにくくなったという事情があった。(略)治安維持法の上に重ねて保護観察法というのが出来て私自身その「観察に付せられ」る一人ということになり、また私のところでは、亭主とは別に女房が別くちの保護観察に付せられることになり、生計そのことで万端きわめて不自由なことになった。書きたいちょうどそのことが書けない。書きたいちょうどその調子が書けない。そのうえ、1937年末には例の「執筆禁止の措置」というのが出てきた。肝心の書きたいものがでなくて書くこと——書いて発表することそのことができなくなったのだから私は困った。一年ばかりそれが続く。こうなると、気持ちが腐ってくるだけでなくて縮んでくる。萎縮してやくざな状態におちる危険に見舞われかねなくなる。この「措置」を食った何人かの名が伝えられたが、それが公然の禁止令で来なかったから私たちはいっそう腹立てた。話の出てきた最初のとき、宮本百合子と二人で警保局へ抗議に行ったが甲斐は無かった。ある晩岡邦雄と戸坂潤とが私を訪ねてきて——彼らも同じ「措置」を食っていた。——ある種の反対声明を出そうという話を持ちだしたが私はただちには賛成しなかった。まもなくまた宮本百合子がたずねてきて、このさい用心してかかる必要があるという。彼女の意見に私は賛成して、そのことを呑みこんでくれそうな人を2人で考えた。
 
 
 そして、中島健蔵という作家と3人でこの「悪気流」ともいうべき時代についてざっくばらんに語らいあった。冷静に、むやみに国家を糾弾しないように、慎重に活動を続けておられるなと感じます。この執筆禁止措置は1年で解かれ「革新」という雑誌から小説執筆の依頼が来る。中野重治氏は、自身の文学体験を「自然発生風」だったと回想し、幼少から青年期にかけての文学への接触は、なによりもまず自分から近づいてゆくことが肝心であるというように説かれています。それと同時に、いよいよということになればその自然な接触では追いつかず、教養や知識や知的訓練無しには文学創造は望めない、と中野さんは説いています。この青年期の文学体験について、自然発生する情熱と厳格な知的訓練という2つの必要性を実感し、また芸術的なものと理性的なものとの2つのあいだを中腰で絶えずふらふらしていた自分があった、と回想しておられます。
 
 
 宮本百合子はこの随筆で、ルポルタージュとしての文学を創造することの難解さを検討しています。
 
 


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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  
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