門(5) 夏目漱石

今日は夏目漱石の『門』その5を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
今回の主人公宗助は、漢詩とかそういうもんにもともと興味を持っていないんですが、漱石自身は学生時代から、正岡子規と一緒に漢詩を作ったり俳句を作ったりすることが大好きだった。
 
 
宗助にはなにかこう、無趣味というか無味なところがあって、そこがこの小説の謎を形づくっていると思いました。御米は子に恵まれないことに苦を感じているんですが、宗助はその感情さえも、なにか空白になっている。これ、なんの空白なんだろうか、と思うんです。
 
 
漱石の作品で謎を感じる小説と言えば、やはり「夢十夜」で、ほかにも「草枕」にも謎めいたところが多いわけなんですが、こんかいのこの小説は、いっけんすると普通なような、奇妙な謎が散りばめられているように思います。そもそも「門」という題名を、漱石は自分で決めなかったというところが、最初の謎です。
 
 
こう、なんというんでしょうか、小説は言葉だけで構築するものだから、非現実的な謎まるだしに出来るわけで、「ハンプティダンプティ」とか、カフカの「変身」みたいに、ありえないことだけをどんどん書くことだって出来るわけなんですが、今回の門は、じつに平凡な状況だけを書きながら、それなのにやはり謎が中心にあるような気がしてきました。
 
 
よく、現代文学者は、常識と思われているところに違和感を持つことが文学性のはじまりだ、というようなことを記しているわけなんですが、漱石は、「吾輩は猫である」から「夢十夜」と、超常的な物語創作から進んでいって、もっとよりいっそう、世間の常識とされている箇所にある謎のところへ、眼差しを向けていった、という変化が起きたんだと思いました。
 
 
自分のイメージとしては、ごく普通の生活の中に、マザーグースのような奇妙なものを見つけてゆく、そういう物語だと思いました。
 
 
このごく普通の、なんでもない情景描写も、なにかキューブリック監督の謎めいた映像美のように思えました。本文にこう書いています。
 
 
  宗助はその日の午後とうとう思い切って、歯医者へ寄ったのである。応接間へ通ると、大きな洋卓テーブル周囲まわり天鵞絨びろうどで張った腰掛がならんでいて、待ち合している三四人が、うずくまるようにあごえりうずめていた。それが皆女であった。奇麗きれいな茶色の瓦斯暖炉ガスストーヴには火がまだいてなかった。
 
 
100年前、田舎で起きる歯痛はみな一人一人、どのように対応していたのだろう……と思いました。宗助のかなり年下の弟、小六には育てる親代わりの人間が不在となってしまっていて、いま宙ぶらりんで、大学を卒業間近なのに学費が払えず、人生の予定が空白になっている……。
 
 
この会話もやたら気になりました。
 
 
  ………(宗助は)「今夜は久し振に論語を読んだ」と云った。「論語に何かあって」と御米が聞き返したら、宗助は、
「いや何にもない」と答えた。
 
 

 
 
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