夜行巡査 泉鏡花

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今日は泉鏡花の「夜行巡査」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
泉鏡花と言えば、幻想的な美を描き出すことが最大の特徴だと思うんですが、これはデビューまもない頃の作品で、神秘性はまだ表出しておらず、現実的なお話しです。文体も泉鏡花の代表作とは違っていて、ちょうど無声映画の弁士みたいで勢いがあります。声に出す感じで読むと、内容が入ってきやすかったです。
 
 
あと、泉鏡花は自然界とか水とかそういうものを描くのがすごく上手いんですけど、今回の作品ではまだその方向性が明確化していない気がしました。泉鏡花は夫婦仲が良かったようで、よく散歩をしていたそうなんですが、身近にある自然を良く眺めていて、そういう体験の中から泉鏡花の文学が出来ていったそうなんです。
 
 
この「夜行巡査」では、巡査がですね、町を見廻りしています。貧しい母子が小さな屋根のしたで寒さを凌いで寝ていて、巡査はこれをしかりつけて寒空の下に放り出します。巡査は人情の必要とされる場面ばかりを渡り歩いて、そこで人情を理解せずに規則ばかりを押しつけるというのがどうもすごい小説です。
 
 
分からず屋の巡査に対して、若者が「朴念仁」(ぼくねんじん)だとか「因業な寒鴉」(かんがらす)めと言います。江戸っ子の小説という感じがしたんですが。
 
 
この八田巡査というのが、悪気はなくて悪いことはしていないんですけど、悪い結果ばかりを残して歩いてゆくんですよ。本人は規則を守らせることが仕事だと思っているんです。頭がカチコチの官僚というか、娘の自由を奪う頑固オヤジ、という感じです。おそろしーっと思って読んでいました。
 
 
ところが蓼食う虫も好き好きというのか、この八田巡査に惚れていた女が出てくるんです。お香という女です。このお香のお父さんがわりの老夫がですね、八田巡査が求婚しにきたときに「おまえのようなやつにお香はやらん!」と言って追いだした男なんですよ。江戸っ子というか下町の人間関係とでもいうのか。
 
 
おじいさんは自分のことを鬼のような舅(しゅうと)だったと言うんですが、どうもなんだかこう、人情というのを感じます。愛憎相半ばするというかんじです。おじいさんにはお香の母親と過去に大きな因縁があって、娘のように育てたお香との別れがつらいんであります。おじいさんはもうひどいことを言いはじめて「俺が死ぬ時はおまえと一緒だ」とまで言いはじめるんです。お香は怖くなって逃げ出します。お香はおもいあまってお堀の中に飛びこむ勢いで走ってゆくんですが、おじいさんはお香に死なれてはならないとあわててお堀に飛びこんでいってしまうんです。そうしたら、例の八田巡査が川に飛び込んでこれを助けます。殺したいほどの男なんだけれど、仕事だから助けるんだ、と言います。終盤はなかなか迫力のある描写なんで、興味のある方はぜひ原文で読んでみてください。
 
 
しかしお香になんとか良い未来を与えてやりたいと、男二人がそれぞれに思っていて、それが二人とも結果を残せずに……彼は仁にあつい男だったと言えるの? ということについて語り手の泉鏡花が、苦言を呈している一文があるんですよ。これにしびれました。
 
 

 
 
こちらのリンクから全文読めます。(縦書きブラウザの使い方はこちら
http://akarinohon.com/center/yako_junsa.html
(約100頁 / ロード時間約30秒)
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