実語教

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今日は実語教を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
これは江戸時代の寺子屋で、かつて実際に使われていた児童教訓書です。鎌倉時代に成立した書物で、作者は不詳です。江戸時代には児童にまずこれを教えたんです。現代で言えば、小学校でこれを教えたわけですね。儒教的な内容で、一説によれば、弘法大師空海が書いたとも言われています。

空海は十代の頃エリート官僚になろうと思っていて大学で学んでいたのですが、ある日出会ったお坊さんの教えに感動して仏教に目覚め、山の中で一人修行してから空と海を眺めて、その自然界のありさまに感動し、それから僧となって唐へ渡り長安で学んだ有名なお坊さんです。孫悟空や三蔵法師が登場する西遊記のようなすごい長旅を実際にしているおもしろいお坊さんです。空海は長安で密教を学んでから日本へ帰り、四国で治水工事をしたり、密教を広めたりして、真言宗の開祖になりました。その空海が綜芸種智院という日本で初めて身分を問わずに学問を教えた学校を開いているわけですから、江戸時代に使われた児童教訓書の作者が空海であるという説が出てくるのもおかしな話ではないと思います。

空海の密教においては、十住心論というのがありますが、ご存じでしょうか。
人の心を十の段階に分け、
一、獣のように本能のままに生きている第一住心からはじまり、
二、幼児が日常の倫理に目覚めた段階が第二住心で、
三、外界への恐れを薄れさせてゆくのが第三住心で、
四、初期仏教の認識に目覚めるのが第四住心で、
五、自分の苦しみを除くところまではたどり着いた状態が第五住心で、
六、すべての人々を救済しようとする慈愛に満たされた段階が第六住心で、
七、一切のことは実体がなく空であると悟った段階が第七住心で、
八、あらゆるものは本来清浄であり対立することはないと悟る段階が第八住心で、
九、現実の世界も理想の世界も同じだと悟る段階が第九住心で、
十、あらゆるものの価値に目覚め、世界の真実の姿に目覚める段階が第十住心
なのだそうです。

密教というのは、短歌や俳句の世界とは違うわけですし、短く要約してしまったらその教えがまったく機能しないものであるはずですが。空海に興味を持った方は、密教の歴史を研究した本をじっさいに読んでみてください。難しい古典は読めないという方には、空海の図解マンガもあったりしますよ。

ふつうは、十住心論の一段階から五段階目くらいまでのあいだを行き来しているという感じだと思うんですが、その先のことはかなりむずかしそうですよね。現代の偉人に照らしあわせてみても、十をすべてできているなという人はかなり少ないのではないでしょうか。ヘタに高次元なところをマネするととんちんかんな幸福感につつまれた人になってしまいそうです。

実語教は、児童たちに勉学の勧めや日常道徳などを説いている、生活の中の倫理を教える書物ですから、空海の十住心論で言えば第二住心にあてはまりますね。実際に空海がこの実語教をまとめたのか、それとも別の人がまとめたのかは判りませんが。この編纂者が空海のことを心に念じながら書いたことはまず間違いないんじゃないでしょうか。

時代劇などでよく出てくる寺子屋で、じっさいに学んでいた幼子は、この実語教を諳んじていたようです。まずは音のひびきに親しんでこれを暗誦できるようになることを重視して、すっかりと暗誦できるようになってから、実生活を通してその意味を知ってゆく、というのが当時の教育法だったようです。

実語教は声に出して読みたい古典だと思います。意味を考えるよりまず先に、詩のように読めるのが興味深いです。これってかなりすてきなことが書いてありますから、現代人がこれを何度も読んで、諳んじられるようになると良いんじゃないかなと思います。

『山高きが故に貴(たっと)からず。木有るを以(もっ)て貴しとす』

とか

『倉の内の財は朽(く)ちること有り。身の内の財は朽ちること無し』

とか

『なほ農業を忘れざるがごとく、必ず学文を廃することなかれ』

なんて
小学生に言われた日には、しょんべんちびりますね。
心の宝は朽ちることがない! だから君よ、学ぶことを永遠に忘れるな。

一つ一つのフレーズがどこか詩になっている。
一生忘れたくない詩ですよこれは。



http://akarinohon.com/center/jitugokyou.html (ページ数 約5枚)




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実語教” への2件のコメント

  1. はじめまして。
    知人から「江戸しぐさ」のHPを知り、
    そこから「實語教」をしり、
    そして、貴サイトにたどり着きました。
    とても素晴らしいサイトですね!
    これからも継続して利用させて頂きます。
    有難うございました。

    • 感想ありがとうございます。
      明かりの本では名作を楽しめるように今後も更新してゆきます。
       
      紹介文については、あとで読み返すとけっこうちんぷんかんぷんなことを書いてしまっていることに気付いて恥ずかしくなることが多いんです。
      名作や古典の、本文のほうをぜひお楽しみください。

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