吾輩は猫である(9) 夏目漱石

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今日は夏目漱石の「吾輩は猫である」その(9)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
猫は突然、主人の顔の重大な特徴を言いはじめるんですよ。それまでさんざん主人のことを猫が話してきて、よくよく知っているつもりでいた読者はじつは、重要なところはまるで知らされていなかった、と気付く。これぞ、小説の妙だ、と思いました。叙述トリックみたいなやつです。
 
 
言葉はなにか、いかにも事実っぽいことを告げているようで、やはり造形された虚構で、現実の世界とはまったく別の構造をしている。言葉と現実は、彫刻と生物くらい異なる。いや、宇宙ぜんたいと生きものたちくらい、そうとうな別物だなあ、と思いました。
 
 
これまでの主人の顔の描写を抜き出してみると「元来主人は平常枯木寒巌のような顔付はしているものの実のところは決して婦人に冷淡な方ではない」というように、見た目よりも、表情や態度や心情のほうをおもに描写していました。
 
 
章ごとに、登場人物の印象がかなり変わる、というのが逆に小説の魅力のような気がしました。登場人物に、それまでとは明らかに異なる展開がある、というのがこう、なんか良いんですよ。
 
 
主人は、じつは、こんな顔をしているのであります。「主人は痘痕面あばたづらである。」……「ちょうど噴火山が破裂してラヴァが顔の上を流れたようなもので」……とか「彼のあばたは単に彼の顔を侵蝕せるのみならず、とくの昔に脳天まで食い込んでいる」とか、それを隠すために、髪を長くしているんだとか、なんじゃそりゃというような、すごい描写がありました。しかも9章までに、アバタという言葉はいちども書いてなかったのにーっ、と思いました。この小説独特の新展開。
 
 
主人は、捕まった泥棒と警察官の2人を見て、おもわずどっちが泥棒か判らずに、勘違いをして泥棒のほうにお辞儀をしてしまう……。主人たちは、ものに夢中になりすぎるおかしな性格についてや、あるいは、まったくもって変な人の話に納得してしまう自分はいったいなんなんだ、ということを考えはじめるのでありました。友人や知人たちの頭はどうもおかしいんでないかということを主人は考える。そこの描写がみごとでした。「きちがい」という言葉は現代では使わないように推奨されてしまっているんですが、漱石は繰り返しこのことを書いています。こんなのです。
 
  第一に今日来たフロックコートの伯父さんはどうだ。心をどこに置こうぞ……あれも少々怪しいようだ。第二に寒月はどうだ。朝から晩まで弁当持参でたまばかり磨いている。これも棒組ぼうぐみだ。第三にと……迷亭? あれはふざけ廻るのを天職のように心得ている。全く陽性の気狂に相違ない。第四はと……金田の妻君。あの毒悪な根性こんじょうは全く常識をはずれている。純然たる気じるしにきまってる。第五は金田君の番だ。金田君には御目に懸った事はないが、まずあの細君をうやうやしくおっ立てて、琴瑟きんしつ調和しているところを見ると非凡の人間と見立てて差支さしつかえあるまい。非凡は気狂の異名いみょうであるから、まずこれも同類にしておいて構わない。(略)ことによると社会はみんな気狂の寄り合かも知れない。
 
 
興味のある方は、九章の終盤だけ読んでみてください(読み込みと表示に30秒くらいかかります)。オチも良くっておもしろかったです。「吾輩は猫である」の特徴がすこぶる良く出ている箇所だと思います。
 
 

 
 
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 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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