今日は夏目漱石の「吾輩は猫である」その(11)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
「吾輩は猫である」は、今回が最終章で、これで完結です。次回から、漱石三部作を読んでゆこうと思っています。けっきょく、寒月は故郷の女と結婚し、金田の娘とは結婚はしないという……よく判らない展開の中で、作中のこのセリフが気に入りました。
ともかくも我々未婚の青年は芸術の霊気にふれて向上の一路を開拓しなければ人生の意義が分からないですから、まず手始めにヴァイオリンでも習おうと思って…………
しかし、狭い世間では、音楽の素人がヴァイオリンを買うのさえはばかられる、と。いう話が書かれてありました。しかも延々、素人だけどヴァイオリンをひきたい、と書いていました。はい。未婚の有名人というと、「箱」の芸術家ジョセフ・コーネルを思い出します。あと、哲学者のウィトゲンシュタインも独身で、この人の日記が良いんですよ。漱石はばりばりの既婚者で子持ちで、それで友人の正岡子規は生涯独身でした。
「吾輩は猫である」は漱石の処女作で、ものっすごくなんか難読でした。書いている文章はやさしいんですけど、暖簾に腕押しというか、どこを中心に読んだら良いのか今ひとつ掴めなかったです。あ、あとこの小説の魅力は、漱石文学の出発点であって、のちのさまざまな文学の萌芽が散見される、と言うところにあるように思いました。
漱石の「草枕」とか「坊っちゃん」とか「こころ」はひじょうにこう、筋の通ったところと、物語上の引力というのがあって良かったんですけど、この作品は捉えどころが無いように思いました。漱石ファンでも、これを全文読みとおした方は少ないんではないかと思いました。自分も全文読めたとは思えませんでした。いちおう目は通したんですけど、どうもこう内容を理解できたとはあまり思えませんでした。はじめて漱石作品を読むときは、「吾輩は猫である」は1章以上読まないほうが良いんでは、と思いました。1章と9章のぜんぶ、さえ読めば、かなりこの小説の魅力は堪能できるように思えました。
けっきょく、金田の娘にも多々良君という結婚相手が見つかった。登場人物のオチは意外と強引に付けられていて、なんだか落語のような終わり方でした。主人公の猫にも終わりが記されていてちょっと驚きました。
最終章でもいろんな議論があるんですが、芸術とニーチェの議論がおもしろかったです。あと、作中のこの描写がなにか、現代のネット社会に通じているような気がしました。
あらゆる生存者がことごとく個性を主張し出して、だれを見ても君は君、僕は僕だよと云わぬばかりの風をするようになる。ふたりの人が途中で逢えばうぬが人間なら、おれも人間だぞと心の中で喧嘩を買いながら行き違う。それだけ個人が強くなった。個人が平等に強くなったから、個人が平等に弱くなった訳になる。人がおのれを害する事が出来にくくなった点において、たしかに自分は強くなったのだが、滅多に人の身の上に手出しがならなくなった点においては、明かに昔より弱くなったんだろう。強くなるのは嬉しいが、弱くなるのは誰もありがたくないから、人から一毫も犯されまいと、強い点をあくまで固守すると同時に、せめて半毛でも人を侵してやろうと、弱いところは無理にも拡げたくなる。こうなると人と人の間に空間がなくなって、生きてるのが窮屈になる。出来るだけ自分を張りつめて、はち切れるばかりにふくれ返って苦しがって生存している。苦しいから色々の方法で個人と個人との間に余裕を求める。かくのごとく人間が自業自得で苦しんで、その苦し紛れに案出した第一の方案は親子別居の制さ。…………
それから東風君はこう主張しています。
「私の考では世の中に何が尊いと云って愛と美ほど尊いものはないと思います。吾々を慰藉し、吾々を完全にし、吾々を幸福にするのは全く両者の御蔭であります。吾人の情操を優美にし、品性を高潔にし、同情を洗錬するのは全く両者の御蔭であります。だから吾人はいつの世いずくに生れてもこの二つのものを忘れることが出来ないです。この二つの者が現実世界にあらわれると、愛は夫婦と云う関係になります。美は詩歌、音楽の形式に分れます。それだからいやしくも人類の地球の表面に存在する限りは夫婦と芸術は決して滅する事はなかろうと思います」
このすぐあとに、漱石はまた逆のことを書いている。こんな描写です。
「なければ結構だが、今哲学者が云った通りちゃんと滅してしまうから仕方がないと、あきらめるさ。なに芸術だ? 芸術だって夫婦と同じ運命に帰着するのさ。個性の発展というのは個性の自由と云う意味だろう。個性の自由と云う意味はおれはおれ、人は人と云う意味だろう。その芸術なんか………………
漱石と正岡子規は、昔こんな話をしたのかな、と思いました。
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ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。
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