三四郎 夏目漱石(10)

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今日は夏目漱石の「三四郎」その(10)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
この三四郎という物語では、予想外に広田先生が良く出てきます。話の主軸は三四郎と女たちの関係のところがこう、中心になっているんですけれども、それとは関係無い広田先生というのがちょくちょく顔を出す。広田先生は、そもそも三四郎と無関係な人だった。
 
 
三四郎は大学に通っていて、広田先生は三四郎が一回もお世話になったことが無い高校の先生をしている。漱石のおもしろさ、というのはこの、組織の上から下へと言う縦軸とはちがうところに、着眼するところなんだなあと、改めて思いました。
 
 
ふつう、ちょっと物語を作ってみようと思ったら、通常ならぜったいに「主役と恋人」とか、「父と子」とか「主役に教える先生」とか、こう、直接関係あるほうをメインに持ってきてしまうと思うんですよ。ところが、漱石は、処女作からこう、まったく関係のない勢力、というのを主軸に持ってくる。なんせ処女作が、通りすがりのような猫が主役でしたし。
 
 
世界的に有名な古典文学であっても、たとえばゲーテの詩集を読んでいても、基本的には、主役と恋人とか、主役と母とか、あるいは映画とかで良くある「主役と敵」とか、そういう目に見える関係を重大視して居ると思うんですけど、漱石はどうも違うんですよ。関係のないところから、関係のなさそうなところへと渡り歩いている。そこがなんとも不思議でおもしろいです。
 
 
漱石は作中で、こう書いています。原文でどうぞ。

  中学教師などの生活状態を聞いてみると、みな気の毒なものばかりのようだが、真に気の毒と思うのは当人だけである。なぜというと、現代人は事実を好むが、事実に伴なう情操は切り捨てる習慣である。切り捨てなければならないほど世間が切迫しているのだからしかたがない。その証拠には新聞を見るとわかる。新聞の社会記事は十の九まで悲劇である。けれども我々はこの悲劇を悲劇として味わう余裕がない。ただ事実の報道として読むだけである。

  すべてが、この調子と思わなくっちゃいけない。辞職もそのとおり。当人には悲劇に近いでき事かもしれないが、他人にはそれほど痛切な感じを与えないと覚悟しなければなるまい。そのつもりで運動したらよかろう。
  「だって先生くらい余裕があるなら、少しは痛切に感じてもよさそうなものだが」と柔術の男がまじめな顔をして言った。この時は広田先生も三四郎も、そう言った当人も一度に笑った。
 
 
ところが、漱石の書いた物語の、重大なところでは、この他人の悲劇というのが、読者にぐわっと迫ってくる。けれども他の文学作品と比べると、どこかこう、乾いた印象を残すのも事実で、これがまた漱石の絶妙な距離感で、いちばんの魅力なんだろうと思いました。
 
 
三四郎はナイーブになって、学校を卒業したらもはや自分の気楽な生き方は無くなってしまうかのような妄想をしてみる。大学の頃に、三四郎を読んだらもっとおもしろかったのになあー、と思いながら読んでいました。
 
 
10章の序盤で、幼子の葬儀と、知人の女について考察するシーンがあるんですけれども、圧倒されました。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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