破戒(8) 島崎藤村

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今日は島崎藤村の『破戒』その(8)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 

今回はちょうど物語の中盤です。父は出自を隠せと言って他界した。尊敬する猪子先生は、それを前に前に出して、差別の問題を徹底的に描きながら生きている。
 
 
その猪子先生が、丑松の留守中に、丑松の滞在する親戚の家を訪ねてくれた。そこでは父の遺言に従って、かつての部落での習慣を隠すことによって、平穏を保っていた。ぼくはこの習慣をまったく知らないのですが、その出自の村では、明治時代よりももう少し昔の頃には普通ならお茶を出さないはずだった、というんですよ。おそらく江戸時代に禁令が出たかどうかして、お茶を出さない習慣が残ったのであろうと思うんですが、この問題の歴史考証は自分は知らないもので、事実がどうなっているのか自分には判断ができませんでした。喜田貞吉という学者の評論を読んだところによれば、江戸時代には茶を出せないどころか、町での飲食やごく普通の立ち話さえ、江戸幕府に縛られていた武家によって禁じられていたという事実は確認できました。しかし、これはそのずっと後の時代ですから、また藤村の時代には異なる社会状況があったように想像されます。
 
 
かつては差別問題があって茶を出せなかった。しかし引っ越しをして、新しい暮らし方をするようになって、そういったもろもろの習慣を身につけていった、と藤村は書いているんです。そのような過去を思いだして、伯母は茶を汲む指先が、震えてしまう。
 
 
あのー、フランスの哲学者フーコーは当時、禁忌とされていた同性愛者で、それでそのことを表に出せずに、そうとう悩んでおって、それで新しい哲学を創る原動力にもなったそうで、島崎藤村は、それとはまた異なる禁忌をどこかに抱えていてこのように重厚な文学を描くようになったんだろうなあ……と、空想しました。
 
主人公は古里について悩み尽くしているのに、その古里に帰ると、なにもかも心安らぐという逆説の描写に、じつに普遍的な文学性を感じました。
 
 
丑松は、尊敬する猪子先生に再会して、自分の出自が、猪子先生と同じ苦の中にあることを言おうとする。しかし、なぜだかそれを告げることができなかった。原文はこうです。
 
 
  秘密――生死いきしににも関はる真実ほんたうの秘密――仮令たとひ先方さきが同じ素性であるとは言ひ乍ら、奈何どうして左様さう容易たやす告白うちあけることが出来よう。言はうとしては躊躇ちうちよした。躊躇しては自分で自分を責めた。丑松は心の内部なかで、おそれたり、迷つたり、悶えたりしたのである。
 
 


 
 
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「破戒」登場人物表
 

 






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 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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