破戒(16) 島崎藤村

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今日は島崎藤村の『破戒』その(16)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
あのー、細部がなんというか、現代でもこう、リアリティーを感じさせるんですよ。こういう古い描写です。銀之助が、弱ってしまった丑松に言う言葉です。原文でどうぞ。
 
  
  何か君、飲んで見たら奈何だい。焼味噌のすこし黒焦くろこげに成つたやつを茶漬茶椀かなんかに入れて、そこへ熱湯にえゆ注込つぎこんで、二三杯もやつて見給へ。大抵の風邪はなほつてしまふよ。
 
 
差別に苦しんでいる人に「味噌の汁を飲めばいい」というのはずいぶん無神経でひどい話なわけですし、現代医学上これが正しいとは思いませんが、しかし感覚はすごく理解できます。念入りに火を通した、温かいものをちゃんと食べて、暖かくしてたっぷり眠ることが、やはり風邪を治すのに良いわけで、とくにこの、味噌のちょっとした描写が、迫力があるんですよ。じっさい、藤村は当時の社会と比較するとものすごい長生きな人ですから、書いているものも自然と、養生に良いものに通じている感じがします。北国の賢治が氷を好んだのに比べて、明らかに健康的なんですよ。藤村の、味噌の描写はちょっと、すごいんですよほんとに。いくつか紹介します。
 
 
第九章のですね、尊敬する猪子連太郎先生と、丑松とが飯を食いながら話しているシーンがあるんです。原文はこうです。
 
  ……
  ……まあ、うして膳に向つて見ると、あの師範校の食堂を思出さずには居られないねえ。』
と笑つて、蓮太郎は話し/\食つた。丑松も骨離ほねばなれの好いはやの肉を取つて、香ばしく焼けた味噌の香を嗅ぎ乍ら話した。
 
 
それから、丑松の、唯一の親戚のおばさんとおじさんが、仕事場のある村へ帰る丑松に、長旅のためのおにぎりを手渡すシーンです。原文はこうです。
 
 
  やれ、それ、と叔父夫婦は気をんで、暦を繰つて日を見るやら、草鞋わらぢの用意をして呉れるやら、握飯むすびは三つも有れば沢山だといふものを五つもこしらへて、竹の皮に包んで、別に瓜の味噌漬みそづけを添へて呉れた。
 
 
丑松はとうとう、小学校の先生をすることが、苦しくてできなくなってしまう。風邪のようになって寝ていると、同僚の銀之助が、給料袋を届けに訪れてくれる。その銀之助はもうすぐ、遠い職場に行ってしまう。さらには、被差別問題を抱えた先生がどうも一人いるということで、学校ではたいへんな噂になっている。
 
 
丑松は、雪の中をただ一人歩き、それから尊敬している猪子先生の本を全部売ってしまった。差別問題を隠すために、重大なものを捨ててしまうのです。アンビバレントな心理描写と、飲み屋での雑然とした感じは、ドストエフスキーの『罪と罰』の雰囲気と、よく似ていると思いました。老いた敬之進は、身を寄せている蓮花寺の坊さんから娘がひどい扱いを受けているのだが、もう娘は他にどこにも行場が無い、ということを丑松に話した……。
 
 

 
 
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 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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