それから(1) 夏目漱石

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今日は夏目漱石の「それから」その1を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
この物語の始まりの饒舌さに、息をのむんですけど、漱石は五感を駆使するのが特別に上手いんですよ。まずは、目覚めた瞬間の音を描きだしているんです。音の表現がすごいです。
 
 
夜中にたしかに、花のおちる音を聞いたと書くんです。漱石の小説の第一声は、「吾輩は猫である」と記したわけなんですけど、そういえば小説は、猫の感覚で世界を見ることなんだなということを感じます。原文は、こういう文章なんです。
 
 
  誰かあわただしく門前をけて行く足音がした時、代助だいすけの頭の中には、大きな俎下駄まないたげたくうから、ぶら下っていた。けれども、その俎下駄は、足音の遠退とおのくに従って、すうと頭から抜け出して消えてしまった。そうして眼が覚めた。
  枕元まくらもとを見ると、八重の椿つばきが一輪畳の上に落ちている。代助は昨夕ゆうべ床の中でたしかにこの花の落ちる音を聞いた。彼の耳には、それが護謨毬ゴムまりを天井裏から投げ付けた程に響いた。
 
 
ふつうの感覚で言ったら、真夜中に花のおちる音を聞いた、ということは言葉で取りあげられることなんて無くって、そこは意識から排除されるはずです。ところが漱石は、いきなり、そういう動物的な意識を描きます。
 
 
主人公の代助は、心臓の音を聞いてから、時間の流れに意識をもってゆき、生死について黙考する。漱石が書くと、男が朝歯をみがくところまで、美しい詩のようになるのが、読者としてはたまらなく嬉しいという感じです。小説は、主人公ともう一人の存在というのがあって、それは『語り手』という透明な人物がいるわけで、「今日わたしは8時に……」というような書き方でも無い限り、主人公と語り手は別人なんです。芥川龍之介の「蜘蛛の糸」がまさにこれで、主人公犍陀多とまったくことなる、天女のような語り手、というのが存在しています。その語り手は、作者である書き手ともまた、まったく違うわけです。
 
 
今回の語り手は、いったい誰なんだろうかと思っていたんですが、あんがい処女作の猫かもしれないと思いました。
 
 
あのー、漱石はとくべつにこう、代表作どうしが絡みあっていて、作品同士で、まるで連作短編集のように関連性の高い作家に思えます。「三四郎」や「吾輩は猫である」や「こころ」の住民たちの家家が、向こう三軒両隣あたりに、いかにも存在していそうな感じがするんです。物語上は繋がっていなくても、町並みや事件とうとうが、連なっている感じがするんです。
 
 
なにかこう、猫の移動経路とか、「こころ」のKの雨の日の散歩道とか、漱石町並み事件簿というのが詳細に描かれた、おおきな絵地図があったら、飾って毎日ながめていたいような気がします。

 
代助はまずまずの裕福な家に生まれたから、家に書生を住まわせたりもして、主人という立場なんです。しかし主人も書生も、どちらも仕事をろくにせずに、ただ遊民のようにブラブラとしているだけ。主人と書生の関係が、上下関係とはまったく無縁で、じつに曖昧模糊としている。そのあいまいな感じがすこぶる良いんですよ。
 
 
代助は、写真帳に、若い女がうつっているのをじっと見る。これは誰なんでしょうか……。
 
 

 
 
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 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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