それから(3) 夏目漱石

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今日は夏目漱石の「それから」その3を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
代助は働けるだけの体と頭とがあるんですが、のんびりしている。これは、現代で読んでもおかしいんだから、当時はよっぽど珍しい生き方だったんじゃないかなあと思うんですけど、本文にこう書いています。
  
 
  代助は月に一度は必ず本家へ金をもらいにく。代助は親の金とも、兄の金ともつかぬものを使って生きている。月に一度の外にも、退屈になれば出掛けて行く。
 
 
お金がかなり余分にあるもんで、嫂などは、フランスから美しい布を取り寄せて、それを着物の帯にしたりして遊んでいる。その帯の出所をしらべてみると、日本からフランスへ輸出されたものをまた日本に送ってきたものだと判った。
 
 
家族みんな好き勝手に趣味をやっている。印象に残ったのは、親子のむかしからの対立のことが、じつに軽妙に記されている箇所です。なんというか、漱石のごく短い一文の、そのひとつひとつにうなるんですけど、原文をそのまんま読まないとどうも、そのおもしろさが伝わらないところが、すごいなと思います。ぜんぜんマネできません。
 
 
代助は、地震と、親父の石頭と、戦争が嫌いなんですよ。陸軍軍医の森鴎外と付きあいながら、こういうことがすらすらと書けるところに、漱石文学の自由さというのを感じました。
 
 
代助は親から金をもらっているのに、ずいぶん親父にたいしてえらそうで、そこがなんともおもろいんです。親父は、平岡のようにちゃんと働けという。すると、彼はもう仕事で失敗して帰ってきたという。どうしてか、と親父が聞くと、代助はこう答える。原文はこうです。
 
  
……
「その代り失敗しくじって、もう帰って来ました」
老人は苦笑を禁じ得なかった。
「どうして」と聞いた。
「つまり食う為に働らくからでしょう」
 
 
ふつう、食うために働くから地に足がついて失敗しにくくなると思うんだがなあーと思いつつ、なんだか妙にここが気になりました。働く方が先にあって、食うことがあとからついてくる、ということだってやっぱりあるかもしれん、と思いました。代助のたびたび言う「嫌」というのが、ほんの一文字なのに、ずいぶん面白いんです。ちょっとこれはもう、原文をまるごと読んでもらわないとこの魅力はぜんぜん伝えられません。親父が「誠」って一言いうだけで、もう代助は嫌なんです。わかるなーと思いながら読んでいました。代助は、なんだかすごい人との結婚を、家族から勧められている。
 
 
登場人物の名前を見てゆくと面白いんですけど、兄の誠吾、甥の誠太郎、父の幼名は誠之進。で主人公は代助。あまり期待されずに名づけられたんだなと言うのが、名前からしてもこう……。
 
 
気まずいはずの家族の状況を、漱石が流暢に書き記しているというのが、興味深いです。たぶん、何十年かあとに、運送や事務において人工知能が、人間以上の仕事をし始めてから、代助のように賢いんだけどとくに働かない人々が増えてくるわけで、その文明の変化の時に、また漱石が注目されるんだろうと思いました。
 
 

 
 
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