それから(6) 夏目漱石

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今日は夏目漱石の「それから」その6を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
今回の物語は、代助と平岡の、友情の描写が色濃くて、そこがじつに読んでいて気分が良いです。平岡夫婦は、いずれ自分のところに、経済面で力を貸してくれと言ってくるだろうと、代助は予想していて、代助はそれになんとか応えようと考えている。漠然とした不安を抱えながら、代助は世界の文学事情について、奇妙と言えば奇妙な考察をしている。原文はこうなんです。
 
 
  代助は露西亜ロシア文学に出て来る不安を、天候の具合と、政治の圧迫で解釈していた。仏蘭西フランス文学に出てくる不安を、有夫姦ゆうふかんの多いためと見ていた。ダヌンチオによって代表される以太利イタリー文学の不安を、無制限の堕落から出る自己欠損の感と判断していた。だから日本の文学者が、好んで不安と云う側からのみ社会を描き出すのを、舶来の唐物とうぶつの様に見傚みなした。
 
 
日本の文学で言われている「不安」というものが、どうも輸入品のように感ぜられる。代助は平岡の家に再び遊びにいった。平岡の家は、やはり金に困っているので、ウサギ小屋のような小ささである。
 
 
平岡の子の不幸が、かつて使っていた子供服と絡んで描かれている。平岡は、不愉快でいる。いっけん冷淡に見えてしまう、代助の内心の考えはこうなんです。原文で読んでみてください。

 
  鍍金めっききんに通用させようとする切ない工面より、真鍮しんちゅうを真鍮で通して、真鍮相当の侮蔑ぶべつを我慢する方が楽である。
 
 
代助は、一等国としてやってゆけないもんが無理をしようとするのは、「牛と競争をするかえると同じ事で、もう君、腹が裂けるよ」という。そういう無理の影響は、個人の上に反射して来ていると、言うんです。日本が強国と張り合ったりしたらまずいことになるぞ、と言うんです。漱石は五十年先の未来を、ものすごくよく見ているなあと驚きました。
 
 
銀行を辞めてすることがない平岡は、ずっと遊民のままの代助にたいして、お前はこういう奴なんだという。
 
 
  「僕は失敗したさ。けれども失敗しても働らいている。又これからも働らく積りだ。君は僕の失敗したのを見て笑っている。――笑わないたって、要するに笑ってると同じ事に帰着するんだから構わない。いいか、君は笑っている。笑っているが、その君は何もないじゃないか。君は世の中を、ありのままで受け取る男だ。言葉を換えて云うと、意志を発展させる事の出来ない男だろう。
  …………
 
 
このあとの、平岡と代助の口上が秀逸でした。漱石は終始、もの足りないと感じる男の、その心理を描いてきたんだなあと思いました。ここまで頭が切れるのに、働かない状態の男を、漱石はじっさいにずっと見てきたんだなと言うことを感じました。ちょっと調べていると、親友の正岡子規が、新聞社で順調に働けていた期間は、2年半ほどで、そのあとは、病床で闘病をしながら月給をもらっているという暮らしだったようです。

 
 

 
 
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 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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