今日は夏目漱石の「それから」その8を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
めったに働かない男が、親友のために勢い込んで金を調達しようとして、完全に失敗した。これ……判るなあーと思いました。毎日やってることってそんなに完全に失敗したりしないわけで、そうでなくて「はじめて頑張ってみよう」という時に、まったく思い通りにゆかず、期待と逆の結果になる。わかるなー、そういうの。と思いました。
それを、物語で書くときの、漱石の上手さというのに、はあー、とため息がもれました。こういうのは、抜き出すとその魅力が伝わらないかと思うんですが、原文はこうです。
その夜は雨催の空が、地面と同じ様な色に見えた。停留所の赤い柱の傍に、たった一人立って電車を待ち合わしていると、遠い向うから小さい火の玉があらわれて、それが一直線に暗い中を上下に揺れつつ代助の方に近いて来るのが非常に淋しく感ぜられた。乗り込んで見ると、誰も居なかった。黒い着物を着た車掌と運転手の間に挟まれて、一種の音に埋まって動いて行くと、動いている車の外は真暗である。代助は一人明るい中に腰を掛けて、どこまでも電車に乗って、終に下りる機会が来ないまで引っ張り廻される様な気がした。
なにかこう、はじめてゴッホの画集を手に入れて、自分の部屋でじっくり眺めているような、新鮮な気持ちで漱石の文章を読めました。
「それから」は1909年を描いた物語なんですが……今回の「それから」第8章で、地震のことが少し描かれています。漱石は関東大震災も、大災害も体験していないはずなんですが、これをリアルに書いています。調べてみると、1894年(明治27年)6月の明治東京地震にはほんの少し遭遇しているようなんです。漱石はそのころ27歳で、東京高等師範学校の英語教師だったようです。建物の全半壊130棟で、大きな地震だったようです。漱石は、どうもこの26歳頃の英語教師の記憶を辿って、物語を作っているようです。
この頃のことは、「私の個人主義」という講演録でも、記されています。そこにはこう書いているんです。
腹の中は常に空虚でした。空虚ならいっそ思い切りがよかったかも知れませんが、何だか不愉快な煮え切らない漠然たるものが、至る所に潜んでいるようで堪まらないのです。しかも一方では自分の職業としている教師というものに少しの興味ももち得ないのです。
「三四郎」よりも、なおいっそう、今回の「それから」の「代助」は、漱石の分身のような一面があります。金をまったく稼いでいないとか働かない、という代助の特長は、漱石の実人生とはかなり関係無いんですが。
嫂は、主人公の代助を気の毒に思って、お金を少し工面した。その時の、代助の心情描写がまた秀麗で、唸りました。物語が進展したあとに、詩のような思索が入るんですよ。そこが毎回、興味深いんです。4つの展開がきれいに編み込まれているんです。
(1)ことが起きる。(2)感情がうごく。(3)その感覚を捉えて思索を深める。(4)さらにそれを詩の言葉に昇華する。という、漱石独特のきれいな展開があるんです。
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ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。
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