ゴリオ爺さん(9) バルザック

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今日はバルザックの「ゴリオ爺さん」その(9)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
「ゴリオ爺さん」は第12回で完結です。ヴォートランとゴリオ爺さんの2人からの誘いがあって、学生ウージェーヌ・ラスチニャックは激しく揺れ動いていたわけなんですけど、やはりヴォートランは不死身という名の徒刑囚だった。これが警官たちから正体を暴かれる瞬間の描写がすごかったですよ。
 
 
警察のスパイをさせられたミショノー嬢から、毒のごときクスリを飲まされて、ヴォートランは倒れてしまった。しかしまさに不死身という名前だけあってすぐに死の縁から蘇生をした。
 
 
陽気な男ヴォートランという仮の姿から、残忍な脱獄囚への豹変のシーンがすさまじかったです。魔術的な業火が彼の身体を一瞬包んだかのように、中から赤髪の男が現れるんです。
 
 
さらに、人格や言葉使いまでガラッと変化する。それを表現する語り手の文章がじつに秀逸でした。ライトノベルとかジュブナイル小説における、ファンタジー的描写の祖先は、ゲーテの「ファウスト」や、バルザックの「ゴリオ爺さん」なのかもしれないなと、思いました。現代の幻想的小説の、原典として揺るぎがたい存在なのではないかと思いました。
 
 
不死身のジャック・コランまたの名をヴォートランを言い表す文章が迫力があって良いんですよ。抜き出すとその迫力が伝わらないかと思うんですが、本文はこうです。
 
 
  一瞬にしてコランは地獄の詩となり、そこには人間らしい感情が溢れ出していた。ただし後悔の念は一切含まれていなかった。彼の眼差しは常に闘いを好みながら失墜した大天使のそれだった。
 
 
不死身のジャック・コラン(ヴォートラン)は、毒のごときクスリをもった隣人や、警察に密告したスパイに対して、恐ろしいことばをなげかける。こういうセリフです。「私は一週間後の今日にでも、あんたの首を鋸で挽くことだって出来る。だが私はあんたを許してやる、クリスチャンだからな。」さらに逮捕劇に至らせた黒幕に対してこう告げる「憲兵隊総がかりでやつを守ろうとしても、十五日以内にやつは墓の中だ。」ふたたび脱獄して、敵を始末すると宣言したんです。逮捕寸前の男とは思えない不気味さなんです。
 
 
コラン(ヴォートラン)は、自分がなにを狙っているかを告げる。ヴォートランは「反社会的人間が味わう深い幻滅感を打ち破ろうと闘っている」「丁度ジャン・ジャック・ルソーが言ったようにだ、そして私は彼の弟子であることを誇りに思っている」と言うんですよ。
 
 
ジャン・ジャック・ルソーですよ! ヴォートランのモデルとなった男は、ルソーなのかもしれない。そして、ヴォートランは、もっとも気に入った青年ウージェーヌ・ラスチニャックに別れのあいさつをして、鎖に繋がれて舞台を去るので、ありました。
 
 
学生ウージェーヌ・ラスチニャックは、危うくこの不死身の徒刑囚に全ての人生を捧げるところだった。ぎりぎりのところで、彼はゴリオ爺さんの勧める人生を選んでいた。ゴリオ氏は、資産家の男と結婚して自由を失った娘ニュシンゲンと学生ウージェーヌ・ラスチニャックを結びつけるために、美しい家を準備していた。
 
 
さらには、借金まみれの娘ニュシンゲンと、貧しい家から来た学生ウージェーヌ・ラスチニャックという2人ために、潤沢な資産と住み家まで与えたのです……ってこれ親公認なんですけど、どう考えも不倫なんですよ。大丈夫なんでしょうか。
 
 
しかし娘のニュシンゲンは、ウージェーヌ・ラスチニャックとの恋愛が成立し、愛の隠れ家を手に入れて歓喜している。ゴリオ爺さんはこの準備のために、あらゆる資産を売り払って、彼らに自由を与えた。語り手は、このおじいさんのことを、一人のキリストであると、無償の愛をあたえ、ただひとり犠牲となったキリストの苦悶の顔を湛えた老人なんだと書きしるすんです。
 
 
たしかに、ゴリオ爺さんの求めていることはほんの1つだけなんです。それは、ただときおり、娘が逢いに来るだけで良いと言うんです。本文こうです。
 
 
「……少し立ち寄ればいいんだ。約束しておくれ、ちょっと!」「はい、お父様」「もう一度言っておくれ」「はい、私の優しいお父様」
 
 
すべてを与え尽くしたゴリオ爺さんのただ一つの願いは、幸福な姿で、ときおり会いにきてくれというだけのことなんです。おじいさんと青年とで、ニュシンゲン夫人を、争うように愛しあっているという、ありえない三角関係が驚きでした。
おじいさんの娘への究極的な溺愛と、不倫ではあるが青年らしいみずみずしさにあふれるウージェーヌ・ラスチニャックの愛とがぶつかりあって、意味不明になっている。
 
 
おじいさんの愛は徹底的なもので、娘の足に口づけをして爪先まで愛していて偏執的でさえある。しかし長年の献身もあって、不動の愛でもある。この愛に青年ウージェーヌ・ラスチニャックは圧倒されている。
 
 
この小説の舞台メゾンヴォーケは、さまざまな登場人物が去りゆき、ついにほとんどもぬけの殻のようになって、物語はいよいよ最終章に突入するんです。
 
 

 
 
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■主要登場人物
・ゴリオじいさん………娘たちを愛するあまり破産した。
・ウージェーヌ・ラスチニャック………うぶで野心家の学生。
・レストー夫人………ウージェーヌが一目惚れした美女で、ゴリオじいさんの実の娘。
・デルフィーヌ・ド・ニュシンゲン夫人………銀行家の妻で、ゴリオじいさんのもう一人の娘。ラスチニャックと恋愛。
・ボーセアン夫人………ウージェーヌの遠い親戚のお金持ち。
・ヴォートラン………謎のお尋ね者。
・ヴィクトリーヌ・タイユフェール嬢………主人公たちとおなじマンションに住む、かつて孤児だった悲しげな目の美少女。母は亡くなり、父とずっと会えぬまま生きてきた。
 
 
(作中[1][2][3]などの数字表記があります。その箇所を解説した訳註はこちらをご覧ください。)







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 ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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