思い出す事など 夏目漱石

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今日は夏目漱石の「思い出す事など」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
これは病と日常についての文学なのですが、一人称の日記を書いているのにまるで三人称で書いた小説のように客観的な印象を受けます。おそらくこれほど病について詳細で深く考察された文学作品は他にないと思います。いま暗いものは読みたくないという方はちょっと避けてもらったほうがいいと思います。
 
 
病に関する文学は、どうも読み手の自分たちにとって架空のものではなく、リアルなもののように思えます。程度の差や時期の違いはあっても、何年後か何十年後か百年後か、生きている間に誰もが体験することなので、他人ごとに思えないような近さがあるんだと思います。
 
 
漱石のこの本を読むと、ぼくの場合はこんなに冷静に困難に立ち向かえないなと思いました。痛いのにも弱いですし。漱石は、体が弱っても頭脳や心情は弱らなかったようなんですよ。そこがすごいなと思います。偶然なのか、漱石自身の意志の強さによるのか謎なんですが。


漱石の本を読み込んで、多くの脚本を書いた監督がですね、ある随筆で、漱石文学の全体像について「漱石は裏切りについて熱心に探求した」と、どんなに親しくした相手であっても、裏切りが生じることはあり得るんだ、ということを漱石が示したんだと言うんですよ。ぼくはびっくりして今まで読んだことのある漱石作品を振り返ってみたんですが、たしかにその通りなんですよ。言われてみるまでまったく気づかなかったんですが、漱石作品が怖いと感じていたのは、そういうあってほしくない現実を深く書き込んでいるからなんだなと思いました。その漱石が、自分の大病のことについて分析して描き出している作品です。
 
 
漱石は、余裕のある文学作品や思想についてを高く評価しているという随筆を残しているんですが、この作品ではこんなことを書いています。
 

    余は病に因ってこの陳腐な幸福と爛熟な寛裕を得て、初めて洋行から帰って平凡な米の飯に向った時のような心持がした。

漱石がはじめてのイギリス大旅行をしたあとにですね、処女作の「吾輩は猫である」が書かれたんですよ。大患をしたあとにそういうころの心持ちになったと記してます。漱石は続けてこう書きます。

    「思い出す事など」は忘れるから思い出すのである。ようやく生き残って東京に帰った余は、病に因って纔かに享けえたこの長閑な心持を早くも失わんとしつつある。

読みすすめてゆくと、ちょっと引きこもりの人とか、調子が良くない人に嬉しいことが書いてあったりします。こんなのです。

    病気をするとだいぶ趣が違って来る。病気の時には自分が一歩現実の世を離れた気になる。他も自分を一歩社会から遠ざかったように大目に見てくれる。こちらには一人前働かなくてもすむという安心ができ、向うにも一人前として取り扱うのが気の毒だという遠慮がある。そうして健康の時にはとても望めない長閑かな春がその間から湧いて出る。この安らかな心がすなわちわが句、わが詩である。

漱石はこの作品を、近しいものへの近況報告の手紙として、書いていますよと記しています。健康的に生きていられることが、かなりありがたいことなんだなあと思いました。
 
 


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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  
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