玄鶴山房 芥川龍之介

今日は芥川龍之介の「玄鶴山房」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
これは晩期の代表作です。このほかに「河童」や「歯車」という作品があります。いかにも芥川っぽい、饒舌な描写で物語が始まります。本文はこうです。
 
 
「玄鶴山房――玄鶴と云うのは何だろう?」
 たまたまこの家の前を通りかかった、髪の毛の長い画学生は細長い絵の具箱を小脇にしたまま、同じ金鈕の制服を着たもう一人の画学生にこう言ったりした。
「何だかな、まさか厳格と云う洒落でもあるまい。」
 彼等は二人とも笑いながら、気軽にこの家の前を通って行った。そのあとには唯凍て切った道に彼等のどちらかが捨てて行った「ゴルデン・バット」の吸い殻が一本、かすかに青い一すじの煙を細ぼそと立てているばかりだった。
 
 
芥川は、肺結核をわずらう老翁と、その家族の境遇について描いてゆきます。かなり重々しい人間関係が描かれてゆきます。玄鶴は八年ほど前から寝たきりとなり、家族の介護を受けて暮らしています。
 
 
wikipediaに登場人物の紹介があったので、引用しておきます。

■登場人物
玄鶴 / 主人公。肺結核を患い、病床に伏している。
重吉 / 娘婿。銀行勤めで悪人ではないが、冷たい性格。
お鈴 / 娘。父の死にあたり、父親の愛人、お芳から財産を守ることに心を奪われている。
お鳥 / 主人公の妻。7~8年前から寝たきりだが、お芳への嫉妬から家族に辛くあたる。
甲野 / 看護婦。二面性があり、他人の不幸に喜びを覚える性を持つ。
 
 
甲野さんというのが、非常にくせ者で、芥川作品でしか出てこないようなニヒルな存在感を示しています。このほかに、お芳という女中が現れるのですが、これは玄鶴が囲っていためかけで、玄鶴との子を宿した。玄鶴が元気な頃には2つの家の主だったわけですが、病にふせてからは、誰をも支えることができないでいる。そこに、めかけの親子である、お芳と幼子文太郎がやってくる。だんだん家の状態がひどくなってきて、という描写が続きます。玄鶴というのがそもそも、すべてを抑えこんで問題が無いようにしていたわけなのですが、その主人が、家に居ながらにして完全に不在になってしまった。論理が通らなくなって、ひどい状態が治まらない、という状況が描かれます。主人が床に伏せ、妻が1人ではなく2人居る。
 
 
これは、玄鶴の気持ちで読んでゆくと鬱々とした内容だと思います。今たまたま家の事情が安定していてしかし職場が火事場のものとしては、甲野さんのように遠巻きに物語を見てゆくことになると思うんです。詩人ゲーテによれば、人間がほんとうに悪くなってくると他人の不幸にしか喜びを見出せなくなる、それは末期的な状態だ、と言うんですが。玄鶴の場合はそうでなくて、自分が良かれと思ってやってきたことが、その人生の終わりに破綻してきた。その破綻を抱えながら生きつづけている。
 
 
苦痛の中で描写される、玄鶴の思いつく一瞬のユーモアというのに、芥川の文学性を感じました。芥川が長生きしていたらきっとこのユーモアが創作の中心になっていったんだろうなと思いました。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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