吾輩は猫である(2) 夏目漱石

今日は夏目漱石の「吾輩は猫である」その(2)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
この小説の魅力は、あの、猫のまなざしという、当時まったく体験不可能だったはずのファンタジーなところから、漱石の実生活を描いたかのような私小説っぽくてリアルなものを描いていったという、その硬軟のギャップの絶妙さにあるんだと思うんです。視点が、猫の眼にバシッと固定されていて、猫が自由に語っている。映画でやったらおもしろい映像になっているだろうなあ、と思いました。
 
 
よく、友だちと遊んだ後に彼が家に帰って、急に一人っきりになるとさみしい顔になってしまう、という場面がありますが、この「猫」のはなしでは、その逆のシーンが描かれていて、主人はですね、知人がやって来る寸前のところで妙にビクビクしている、という姿が、猫の眼に捉えられてしまっていて、面白いところを切りとるもんだと思いました。
 
 
まったくどうでも良い話なんですが、この小説の「吾輩」という猫の風貌は、クロネコでは無くて、じつはこうなんです。本文にこう書いています。
 
 
  吾輩は波斯産ペルシャさんの猫のごとく黄を含める淡灰色にうるしのごとき斑入ふいりの皮膚を有している。
 
 
ペルシャ猫じゃ無くて、日本の雑種ですよ。それで、ちょっとペルシャ猫っぽい、斑点がある猫だと。このサイトこのサイトの猫に、薄墨色と斑点がついたら、漱石の「吾輩は猫である」の猫の姿なんだろうと、思いました。
 
 
私に名前もつけないのかと、猫は不満である。そういえば、源氏物語でも重要人物の名前がいまひとつ明記されていなかったりするんです。白君というのが近所に住む猫で、飼い主に、生まれたばかりの子猫たちを捨てられたことを怒っている。人間と猫の関係性を描きつつ、権力者と人々の対立の構図をあらわしているかのようでした。
 
 
「吾輩」という猫以外にも、いろんな猫が登場して、大きな身体のクロネコの大王(車屋の黒)というのが印象的でした。クロネコは、ネズミ取りの名人で、とったネズミを人間が交番に届けてお金をもらっているという話しをします。wikipediaでこの一件を調べてみると、「ペスト」のページにこんなことが書いてありました。

  1899年は45人のペスト患者が発生し、40人が死亡した。翌年より東京市は予防のために一匹あたり5銭で鼠を買上げた。1901年(明治34年)5月29日警視庁はペスト予防のため屋内を除き跣足(裸足)にて歩行することを禁止した(庁令第41号)。ペスト患者数のピークは1907年で患者数は646人であった。
 
 
ところで、作中で連呼される「トチメンボー」というのは、実在しない食べものののことで、そんな食いものは無い。無いんだけど、「栃麺棒」という言葉は存在していて、これはこういう意味で、「あわて者」とかを意味したりします。
 
 
この小説は、漱石の処女作なんですけど、どうもこう話があっちこっちいってピンとこないところがあります。草枕や漱石三部作を愛読した人は多いんですけど、「吾輩は猫である」を読み込んだ人はもしかして少ないんでは無いか……と思いました。
 
 
「主人」は、画家のアンドレア・デル・サルトにご執心なんですが、この人物、架空の画家かと思ったら、実在する画家でした。ちょっとビビりました。どうせならもっとこう、迫力のある画家について論じれば良いのに、中途半端な画家を取りあげたもんだと思いました……。
 
 
作中の、この文章が印象に残りました。

  僕の小学校時代の朋友ほうゆうで今度の戦争に出て死んだり負傷したものの名前が列挙してあるのさ。その名前を一々読んだ時には何だか世の中が味気あじきなくなって人間もつまらないと云う気が起ったよ。
 
 
作中の many a slip ‘twixt the cup and the lip ということわざは、こういう意味です。
 
 
三毛子という猫が病で亡くなってしまい、その葬儀が行われた。猫が猫の死を知る……、というのは現実にはどのようなものか、自分にはまるで判然としない、と思いました。現実の猫と人とはやはり、決定的に心象風景が異なるだろう、と改めて思いました。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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