破戒(10) 島崎藤村

今日は島崎藤村の『破戒』その(10)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
道中、丑松はやっと、猪子連太郎先生と差し向かいになれた。しかしながら、やはり丑松は猪子先生との、重大な繋がりについて、明言することができなかった。原文はこうです。

  『瀬川君、君は恐しく考へ込んだねえ。』と蓮太郎は丑松の方を振返つて見た。『時に、大分後れましたよ。奈何どうですか、少許すこし急がうぢや有ませんか。』
  斯う言はれて、丑松も其後にいて急いだ。

 
 
徒歩による旅路の、その風景描写がひとつひとつ詩のようで秀逸なんです。農業者から見た自然の様子であったり、あるいは花鳥を愛でるように自然界を描写していたりして、さまざまな角度から風景が描かれています。収穫に直結する土の質について描いていたり、自然界へのアプローチが多様で、これはほかの近代現代作家には見られない、島崎藤村の重大な特徴に思えます。
 
 
それから、父に致命傷を与えた牛の屠殺が行われる。作者の藤村は、父を明らかに尊敬していたわけですが、10代で亡くなったその父の葬儀に参列していないんです。しかしこの破戒という物語から漂ってくる父の葬送への思いはそうとうなもので、ぼくは作者の藤村がじつは、父の葬儀にさえ出ていない、というのはほんとに驚きました。なにかの勘違いじゃ無いかと思ったんですが、調べてみるとどうも、父の亡くなった頃、父がどのように生きていたかよく知らなかったそうです。息子を家の災難から引き離す狙いがあったようです。ネット上では今ひとつ情報が調べきれなかったので、こんどもうすこし詳しくしらべてみたいです。
 
 
今回、藤村自身がこの破戒を「過去の作品」だと述べ、もはや過ぎ去ったものだと記した理由が判るような、差別問題への描写を頑張りすぎて、かえって悪い表現になっているな、と明確に判るシーンがありました。屠殺にやってきた若者たちの描写のシーンです。気合を入れすぎてこのように書いてしまったんだろう……という文章が幾つかありました。
 
 
ドイツでは昔から、現代でも豚肉の解体を、こう街なかで、家族の居るところで、家長がこうのんびりと伝統的にやっていて、ソーセージを作ったりしているらしいんです。日本では、魚をさばくところあたりは、職人がとても美しくやるわけなんですけど、やはり豚や牛ともなると一般には隠す取り決めがあるように思います。
 
 
縄文弥生時代に狩りの時代から農耕の時代へと移って、明治から昭和のころに、農耕や漁や畜産だけの時代から、工業化の時代がはじまる。そこのところで激しい変化があった。その変化があらゆるところに噴き出してきたのが昭和初期の時代なんだろうなあ……と思いました。今回の、牛を屠るシーンは非常に印象深い、重厚な文体で描かれていました。
 
 
丑松はそれを見つめながら、父の生きていた時代から、その次の時代へと移り変わったことを、際限なく考えるのでした。今回の章は、ものすごい迫力でした。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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