白痴(37) ドストエフスキー

今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その37を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
公爵は題名通りにおばかさん、だと思われている。彼はほとんど縁のない異性に対して「愛している」とか、非常に奇妙な場面で堂々と言います。けれどもドストエフスキーはこの主人公を、嘘偽りなく生きる善きものとして描こうとしている。
 
 
おばかさんの公爵が、娘とずいぶん親しくなにごとかをしている、となると母リザヴェータからしたら気が気じゃない。ぼくは近代文学は男が主体で、芥川や正岡子規や鴎外は、男社会を書いたから女の眼差しが乏しくってそこが近代文学の最大の弱点なんだと、思ってたんです。でドストエフスキーもそうなんだろうと思ったら、どうも違うんです。女の描写に迫力があって、原稿のすぐ横に明らかに女がいる気配がします。じっさいドストエフスキーは女性に原稿を速記してもらった(25歳年下の妻アンナ)こともあるわけですし。恋愛しながら、あるいは夫婦で密接に付きあいながら物語を書いていて、作中にも女が生き生きと描写されるんです。
 
 
主人公のことを「白痴」と言ったのはガーニャや主人公本人などの、男なんですけど、それだけじゃなくって女が公爵のことを白痴だという。読んでいると、女の声で「おばかさん」だと言われている感じがしてくる。リザヴェータ夫人もアグラーヤも、公爵を侮辱したいというわけではない。本文こうです。
 

公爵、御迷惑かけて、御免なさいね。でも、どうぞわたしが相変わらず、あなたを尊敬していることを信じていてくださいな

ただ、やっぱり女たちからおばかさんなんだと思われている。公爵は「てんで見られたさまじゃないのに」「立派なおじぎ」をしたりするから、女たちから笑われてしまう。
 
 
それからドストエフスキーには父性の喪失した世界というのがあるんだと思うんです。作中でなんでもないようにこう書いているんですよ。「パパはどっかへ出かけました」そういう場面が多いんですよね。たとえば悪漢のロゴージンなどは、いきなり初めから出てきて度肝を抜くような迫力があるわけですけど、作中で、どっかに消えてしまっている。父らしき役割のはずの存在が、なんか居なくなってる、主人公の父は微塵も出てこない。イッポリットの父も非存在です。彼ら二人は父にならない。父が不在だというのが、ドストエフスキー作品の魅力になっているように思えます。
 
 
レーべジェフは持っていた金が消えたんだと、公爵に訴える。何処かに泥棒が居たはずだ、という話しになる。誰が犯人かいろいろ検討してみると、フェルデシチェンコか将軍があやしいとレーベジェフは言う。レーベジェフ自身の過失なんじゃないかと思いながら読みすすめていたら、どうも考えていることが不実で「とにかく、将軍をはずかしめてやりたいんです」などと言いながら「もしも、あなた様がひたすら、将軍のために、あの人の幸福のために、このことに一はだ脱ごうとおっしゃいましたら」「将軍がどういう人間かということを見ていただきたい」と、不気味な計画に公爵を巻きこもうとしている。
 
 
レーべジェフは「私のこの高潔なる胸の中」といったすぐあとに「私は精神のさもしい野郎ではございますが」と矛盾したことを次々いって、どうも考えていることが怪しいんです。次回に続きます。
 
 

 
 
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