放浪記 第一部 林芙美子

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今日は林芙美子の「放浪記 第一部」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
えーっと、ここのところ林芙美子にはまっていてこれもすごくお薦めです。自伝的な私小説で読み応えがあります。今回は第一部を紹介して、最終章の第三部まで、三回ぜんぶを順次紹介してゆきたいと思います。林芙美子はもともとは九州で生きてきて、広島は尾道とか炭坑街とか東京とかに移り住んでいった作家です。林芙美子は、ごく幼い頃の読書好きな自分をこう描きます。
 
 
  夜は近所の貸本屋から、腕の喜三郎や横紙破りの福島正則、不如帰、なさぬ仲、渦巻などを借りて読んだ。そうした物語の中から何を教ったのだろうか? メデタシ、メデタシの好きな、虫のいい空想と、ヒロイズムとセンチメンタリズムが、海綿のような私の頭をひたしてしまった。私の周囲は朝から晩まで金の話である。私の唯一の理想は、女成金になりたいと云う事だった。
 
 
言葉のはしばしが印象的なんですよ。三好達治の詩に「されどなれは旅人 旅人よ 木蔭に憩え 冷たき石にも 憩えかし」という一節があるんですが、同様に林芙美子の小説にもじつに印象的な言葉というのが記されているんですよ。こんなふうです。
 
 
  故郷に入れられなかった両親を持つ私は、したがって旅が古里であった。
 
 
「したがって旅が古里であった」ですよ。まさに詩の言葉で伝記が記されているんです。描写が細やかで、さまざまで、過去についてこんなに豊かに思い起こせるなんてほんとにすごいなあと感心します。転々とした古里のその鮮やかな描写に舌を巻きます。消えたはずの古里の風景というものが見事に凝縮されているように思います。うーん、すごいです。この描写もすごいと思いませんでしょうか。
 
 
  直方の町は明けても暮れても煤けて暗い空であった。砂で漉した鉄分の多い水で舌がよれるような町であった。
 
 
日本画を鑑賞しているような美しさというのを感じます。序盤にこういう描写があります。
 
  炭坑ごっこをして遊んだりもした。炭坑ごっこの遊びは、女の子はトロッコを押す真似をしたり、男の子は炭坑節を唄いながら土をほじくって行くしぐさである。
 
 
芥川龍之介のトロッコの物語とかが子どもたちのなかで普通に出てきて、これまで断片的にイメージしてきた関東大震災前後の社会が、林芙美子によってみごとに結び合わされて、全体像を見せてくれているなあと感じました。子どもが見た、行商や炭鉱街の世界が描かれているんですよ。言語表現って、ここまで豊かに世相を描写出来るものなんだと驚きました。石川啄木や芥川龍之介やチェーホフや北原白秋の文学と、貧しい家の生活がどういうように結びついていたのかが、解き明かされてゆきます。これまで点で見えていたものが、線でつなぎ合わされて立体的に社会が現れてくるような自伝です。成長して東京に出てきて、どうも社会とうまく繋がってゆけずに悩んでいるという描写があるんですよ。林芙美子は、自分がどういう所に居たのかということを詳細に書いてゆくんです。過去の自分を見つめながら、当時の心境の謎と、社会情勢を解き明かしていこうとしているんだろうと感じました。新宿がどうしてああいう街になったのか、ちょっと見えてくるような描写もあって、時代の変化も感じられるんです。
 
 
  夕方新宿の街を歩いていると、何と云うこともなく男の人にすがりたくなっていた。(誰か、このいまの私を助けてくれる人はないものなのかしら……)新宿駅の陸橋に、紫色のシグナルが光ってゆれているのをじっと見ていると、涙で瞼がふくらんできて、私は子供のようにしゃっくりが出てきた。
 
 
他にも銭湯での秋ちゃんという19歳の女の話とか、じつに細かなところまで面白いんです。なんというか短編小説の魅力が集まって長編になっているような趣きがあります。よくこれだけ豊かに話を集められたなと驚きます。無垢な子ども時代の林芙美子と、社会全体を描写してゆく作家林芙美子と、その両面が堪能できる伝記です。若い頃の恋愛の描写がちょっとすごいんです。ぜひ読んでみてください。
 
  
林芙美子の文学人生を調べてみると、もともとは詩人で、終生詩を愛して生きてきて、本人としては小説よりも詩を書いてゆきたかったそうです。この自伝的私小説には、林芙美子の詩の数々も挿入されていますので、詩を楽しんで読んでゆくこともできました。
 
 

 
 
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 ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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