源氏物語 蓬生

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今日は源氏物語の蓬生(よもぎう)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
これは今までの展開から急に音色が変わって転調する帖です。この帖では、あの末摘花が主人公として登場します。末摘花(すえつむはな)というのは第六帖で登場する、鼻が赤くて教養がデタラメで「華やかさが無い」というとても不思議な存在感が漂うヒロインであるのです。僕はこの源氏物語をはじめて読み進めて居るんですが、どうもこの末摘花がいちばん気になるんです。異質さが際立つ女で、他の華やかな姫君たちにはないリアリティがあります。


末摘花には鮮明な結末が無いですし、途中で物語にまったく登場しなくなります。そもそも光源氏と雅な恋愛を繰り広げていません。であるのにも関わらず、末摘花は光源氏に大きな印象を与えているように僕には思えます。源氏の良心を独特な関わりで引き出しているような雰囲気があるんです。主人公の光源氏というのは華やかで美しい人物であるのです。そこからかなりかけ離れているのが末摘花です。僕たちはそんなに美しくないし華やかでもないので、どこか光源氏を理解しかねる部分があると思うのです。そこを繋ぐ役割として末摘花が居るように思えてなりません。源氏と末摘花の関係性は、善と悪の二元論というような単純な違いではないです。源氏の出生や境遇と一致するところも多く、遠いようで近しい心情を共有しているのが末摘花です。


源氏物語を研究する学者によれば、この大長編には奇妙な謎が隠されているらしいのです。それは54帖の物語が、じつは2つの物語に完全に別れていて、Aの源氏物語と、Bの源氏物語という2つの源氏物語が存在し、はじめはAの源氏物語だけで完結していた、とする学説があるんです。はじめて聞いた方は俄には信じがたいかと思いますが。これはさまざまな学者が古来から研究を重ねているかなり信頼度の高い学説で、哲学者の和辻哲郎氏や青柳秋生氏や武田宗俊氏や大野晋氏がこの説を肯定的に捉えています。


A系の源氏物語は
第一帖 桐壺
第五帖 若紫
第七帖 紅葉賀
第八帖 花宴
第九帖 葵
第十帖 榊
第十一帖 花散里
第十二帖 須磨
第十三帖 明石 
第十四帖 澪標
第十七帖 絵合
第十八帖 松風
第十九帖 薄雲
第二十帖 朝顔
第二十一帖 少女
第三十二帖 梅枝
第三十三帖 藤裏葉
 

B系の源氏物語は、後から創られたもので
第二帖 帚木
第三帖 空蝉
第四帖 夕顔
第六帖 末摘花
第十五帖 蓬生
第十六帖 関屋
第二十二帖 玉鬘
第二十三帖 初音
第二十四帖 胡蝶
第二十五帖 蛍
第二十六帖 常夏
第二十七帖 篝火
第二十八帖 野分
第二十九帖 行幸
第三十帖 藤袴
第三十一帖 真木柱
 
 
このように明確に分けられるというのです。Aの物語は主人公の源氏が正確に年をとってゆきます。ところがBの物語は話が過去にさかのぼったり1つの帖だけで長い年月が経ってしまったりします。そしていちばん違いがあるのは、Bの物語に登場する末摘花などのヒロインが、Aの物語でまったく取りあげられないんです。つまり、Aの源氏物語だけが原形で、Bの物語はあとから書き加えられた物語で、現代のように一から三十三まで順番に読んでゆくと奇妙な違和感が生じる、というらしいのです。


たしかに、第一帖と第二帖とでは、源氏の雰囲気がかなり違いますよね。第一帖では、静かな語り口で源氏の神秘性を書きあらわしていたのに、第二帖では「あいつは好き者なんだよ」みたいな勢いのある口調で派手に語っています。まるで別の作者が第二帖を書き加えてしまったんじゃないのかと思い込んでしまうほど、雰囲気が変化して居るんです。


これが長らく研究が続けられている謎の要点らしいのです。僕はこれを、とても興味深いと思いました。
このAとBの関係性は、たとえば言論界と実社会の分離にも似かよっているように思えるのです。
言論界では未来を見据えて正統なことを語ることが主流になります。
実社会では安定を見据えて変化を抑制するような方針が主流になります。
だから言論界と実社会はかなりかけ離れているんですが、といってAとBがまったく無関係というわけでもない。言論界でなにかがしきりに語られ続けると、実社会もゆっくりと変化してゆく。2つの世界が平行して展開する、という感覚が、源氏物語にも明確に存在しているのです。Aの世界がBの世界と関係している。


こういったAの世界とBの世界の共鳴関係が、日本最古の物語の中に濃厚に隠されているというのはじつに興味深いなあと思いました。現代の物語でも、Aの状況とBの状況が交互に描かれて物語が展開する小説が多いですが、その原形には源氏物語があったのだなあと感心しました。


源氏物語Aの中心には紫の上が中心人物としています。
源氏物語Bの中心には夕顔や玉鬘(第二十二帖)が居ます。
この十五・十六帖ではBの物語が展開します。
源氏物語Bの第六帖をいったん読み返してみると、十五・十六帖への展開が判りやすいかと思います。


おさらいすると、
Aの源氏物語が
第1・5・7・8・9・10・11・12・13・14・17・18・19・20・21・32・33帖です。


Bの源氏物語が
第2・3・4・15・16・22・23・24・25・26・27・28・29・30・31帖です。


これから読むのが末摘花が主人公の【第15帖 蓬生(よもぎう)】ですので、いったん、【第6帖 末摘花(すえつむはな)】を再読すると、判りやすいかと思います。AからBへと物語を転調させる時、その接合地点にいるのが末摘花というヒロインなのです。
 



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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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