新藤兼人監督の映画と本

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今日は、新藤兼人という映画監督の著作を紹介します。

4月22日の今日、新藤監督は100歳の誕生日を迎えられるのです。
新藤監督は49本の映画を監督し数百本の脚本を書いたすごい方です。いま、新藤監督の故郷の広島で、100歳を祝う映画祭が催されているんです。近くにお住まいの方はぜひ見に行ってください。「愛妻物語」とか、「鬼婆」とか、「生きたい」とか、「三文役者」とか、「一枚のハガキ」とか、名作がたくさん上映されています。

新藤兼人 百年の軌跡
https://hyakunennokiseki.web.fc2.com/


愛妻物語 新藤兼人

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ぼくは映画業界とまったく縁が無い単なるファンなんですが、新藤兼人映画について紹介してみたいと思います。新藤兼人映画の魅力は、なんといっても迫力とユーモアが絶妙に混じりあっているというところなんだとおもいます。実際にあったことを伝統的物語に昇華していって古典のような迫力を出す、という技法で観客を魅了しています。舞台劇のような迫力があるんです。とにかくリアルなんです。実際に起きた、本当のことを題材にして描いている作品が多いです。どうしても描くことが難しいことを、物語に昇華して、それを映画化している。「原爆の子」はまさに、実際の戦後の広島でどういう苦難があったかを描写していっています。

新藤監督はどうして本当のことを映画に昇華してゆけたかというと、それは新藤兼人監督の著作を読んでいくと、これは明らかに師匠の溝口健二監督の影響なんです。この溝口監督はものすごいこだわりを持った堅物の映画監督であったようで、戦争の時代になっていって、あまり自由に映画を創れないという頃に、忠臣蔵の映画をやってくれという依頼を受けたんです。師匠の溝口健二監督という方は。それで、忠臣蔵の映画を撮るんですが、溝口監督の一番のこだわりは、リアリティをとことん追求すると言うことなんです。本当にあるように見せたい。忠臣蔵の舞台についても実寸で作って、雪の場面を見せるのでも、小道具の綿を降らせるのではなくて、本物の雪を撮影しに遠征したりする。それで、普通なら、ハデに討ち入りのシーンを挿入する映画になるはずの「忠臣蔵」でですよ。溝口監督は「写実主義でいきたいから、嘘のチャンバラは撮れない」と言ってですね。討ち入りのシーンを撮影しなかった。戦時中に見せ掛けの殺陣はふさわしくないと判断されたようです。それでどうしたかというと、討ち入りのシーンは写実主義では描けないから、討ち入りを伝える手紙を深刻に読む、というのを撮影した。たしかにこれは写実です。実際、深刻な事件について、その出来事についてを文章で読むということをやるよりほか無いんです。だから写実としては正しいんだと思います。しかし売れない映画になってしまう。新藤兼人監督は、そういうものすごいこだわりを持った堅物の溝口監督のお弟子さんとして、映画業界でのスタートをきったのです。溝口監督は現場で普通の何倍も時間をかけて撮影するそうなのですが、完成されたシーンを見ると、他の映画には無い写実主義のリアルが封じこめられていて、新藤監督はこの完成度に圧倒された、と後述しているのです。

溝口監督の本物主義というのを、なんとか映画のダイナミズムに乗せていこうというのが初期新藤作品の中心にあると思います。それから新藤監督は、1960年に実験映画「裸の島」を撮ります。これは「沈黙」についてを描いた映画なんです。「沈黙」ということが映画に鮮やかに投影されている。ぼくはこの映画がすごく好きです。新藤監督の著作を読んでみると、この映画を撮った事情が記されていました。新藤監督の立ち上げた会社では資金確保が出来なくなったし、もうこれでお別れだということで、ただただ裸の島を耕して畑にしようとする夫婦の物語を描いた。この小さな島には、水が一つも無いんです。水が無いところで、なにかを育てようとする。ほんとうに何も無いところに住んでいる。なにもないけど、畑を耕そうとする。この島には水がまったく無いわけですから、よそさまのところにいって水を汲んでくることからはじめないといけない。桶に水を汲んできて、バカみたいに舟に乗って、小さな島まで水をもって行って、完全に干涸らびた大地に、水をまく。これをただただくりかえすだけの毎日です。そういう映画を撮った。これでもうやれることは全部やったから、自分の創作人生も終わりだろうと思っていたら、思わぬことに、ソ連の映画祭から表彰されて、世界中で上映された。それで、映画監督としてその後も60年間、映画を撮りづけることが出来た。

新藤監督は、自分の映画人生を振り返ってですね、こういうことを本に書いています。自分のことを描かないとダメなんだ、と。溝口監督や黒沢明監督というような大きな存在の人も、時には「まったくの他人」のことを熱心に描くことがあったわけなんですが、たとえば忠臣蔵のことを描くとかそういうことなんですが、そういう「他人のことを描いた」ときは成功しないんだと言っておられるんです。僕はこれを読んでハッとしました。ぼく自身が成功しない理由がよく判ったんですよ。なるほど、と唸りました。たしかに、新藤兼人監督の映画が成功する時は、自伝そのものを描いている。自分のことを描いている。「裸の島」が絶賛されたのも、それは新藤兼人監督の随筆を読むともう、自分のことを書いているのが明らかで、兼人監督は幼い頃にいつも母親の側に居て、その母親が毎日毎日一生をかけて畑を耕しているのをいつも見てきたからです。自分の記憶を見事に映画に昇華している。まったくのウソから映画を作ったり、まったくの他人のことを映画にしたりしていないんです。だから成功した。失敗するのはまったくの他人のことを無理やり創作しようとするからなんだ、と気付いてショックを受けました。もっと早くに、新藤兼人監督の映画と本を読み込んでいたらなあと思います。

ちょっと正確に引用してみます。岩波の「老人とつきあう」P.186〜187にこう記しています。


何か創作するということは、社会劇を書くにしても、家庭劇を書くにしても、新聞記事の事件を書くにしても、その主人公に自分がなって書いているのです。
客観的に対象を書いているようにみえても、実は自分を書いているのです。ですから最終的には「自分とは何か」ということになります。「自分とは何か」ということをはっきりつかまなければ、基本もつかめないのです。


これが100歳になるまで生涯現役で創作を続けられた新藤兼人監督の思想であるのです。詳しくは著書を読んでみてください。新藤兼人監督著「老人とつきあう」というのは、姨捨山を題材とした「生きたい」という映画を撮ったあとに、自らの映画人生を振り返って、人から受けた恩のことを書いている随筆です。新藤監督は、名作を繰り返し読むことの重要性を説いています。創作を目指している人は、ほんとうに、新藤兼人本をぜひ読んでください。すごい参考になります。新藤兼人監督はご自身のことを「老人」と言っておられますが、やっていることや言っていることは九十代を超えてもエネルギーにあふれているのです。

新藤兼人 老人とつきあう

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老人読書日記 新藤兼人

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ながい二人の道 音羽信子とともに 新藤兼人

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本を読んでいると、母親への愛情が深かったことが伝わってきます。新藤兼人監督は自分の実際に体験したことを描くことが多かった監督ですから、次の映画が公開されるのなら、きっと母親のことを描いた映画になるんじゃないかと想像します。それにしても、100歳まで創作を続けられるなんてすごいことですよねえ。妻であり仕事の相棒であった乙羽信子さんとの思い出を綴った本を読むと、新藤兼人監督の映画がより一層鮮やかに見られると思います。

新藤兼人 百年の軌跡

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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  
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