傷だらけの足 宮本百合子

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今日は宮本百合子の「傷だらけの足」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
今回も、戦中戦後にわたって文学活動を続けられた宮本百合子と中野重治氏に関するメモを僕個人の備忘録として記しておこうと思います。戦中から戦後にかけて社会的に大きな変化があって、それは言葉においてもまるで変わってしまった。ぼくは今まで知らなかったのですが、別の国では二十世紀の戦争のあとに祖国の言葉自体が失われ、母国語を話せる人が居なくなってしまったという不幸な変化も起きたんです。日本では難読の旧字が改められて、現代の新字というものに変わりました。これは言葉をインテリ層のみならず、あらゆる子どもにも読めるようにしたという点では価値ある変化だったように思えます。
 
 
宮本百合子が批判しているのはしかし、そういう言葉の外側の変化ではなく、言葉の意味自体が傷つけられ、その概念自体が崩れてしまったという問題です。現代で言えば「安全」や「大地」という概念が宮本百合子が言うように傷だらけにされてしまった。二十世紀と現代を同一視しても誤認が生じるばかりなのかもしれないのですが、当時はどういうようにその問題が考えられたのかを知るのはやはり意義のあることではないかと思って読み進めてみます。中野重治氏もこの言葉の問題を考えた講演録を残しているので引用してみます。引用元は「中野重治は語る/平凡社/P.115〜116」からです。
 
 

    あなたがたのなかには、『キュリー夫人伝』を読んだ人が相当あるだろうと思いますが、あすこのポーランド小学校の光景が私には忘れられません。(略)ポーランドの小学校ではロシヤ語が強制されています。ポーランド語は、学校ではいっさい法度ということになっている。それでも心配ですから、ときどき郡視学が抜きうち検査にやってきます。金ぴかの服装をしたツァーリ・ロシヤの監督官が校門にあらわれる。すると門番のおばさんがベルを鳴らします。ある特別の鳴らし方をする。それが教室に伝わります。すると教室で女の教師が生徒たちに目配せをする。生徒たちがいっせいにポーランド語の教科書を机のなかへしまいます。そして代わりにロシヤ語の教科書を机の上に出す。そこへさっきの監督官があらわれてぐるりと見まわします。そうして満足して帰って行く。彼が門を出て行くと、また門番のおばさんがベルを鳴らします。すると教室でもう一度ポーランド語の教科書が机の上に出てくる。こういう状態で、ポーランド人の魂がまもられ、ポーランド語がまもられた。
 
 
強制的な「政治」が人々の言葉を奪ったという歴史を忘れてはならない、と中野重治氏は指摘しています。それから言葉の変化は、けっして政治的な意図からのみ生じたのでは無く、むしろ文明の進化によって必然的にもたらされたということが判る記述があるのですが、それはテレビとかラジオというような文明の利器によって、方言が減少し標準語があまねく行き渡るようになった、という現象です。
 
 
ところで昔は、地方に行くと言葉が通じなくなって困ることがよくあったようです。1922年に啄木の故郷である岩手県の渋民村を旅した中野重治氏は、当時その岩手の方言がまるで判らず言葉のほぼ全てを聴き取ることが出来なかったと書き残しています。そしてそれが東北から北海道へ行くと標準語を元にして新しい言葉が作られていて、これはよく通じたと書いています。北海道の人々が100年200年というような時間軸のなかで多くの開拓民を受けいれて日本中のさまざまな人々が集まるというそういう場で標準語を取り入れながら新しい日本語を培っていったのではないか、ということが指摘されていて興味深かったです。くわしくはこちらの本をお読みください
 
 
この宮本百合子の「傷だらけの足」では、西洋の文学における性の描写と、キリスト教における純潔と肉慾の関係性と、文学の肉体性についてが検討され、また非人間的なる男性社会にあいたいし、女が主体となって日本や文化を生まれ変わらせてゆくという、そういう意志が表明された随筆になっています。この随筆の最後の一文が印象に残ります。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  
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