故海野十三氏追悼文 野村胡堂

今日は野村胡堂の「故海野十三氏追悼文」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
2019年3月11日で、東日本大震災から8年が経ちます。3月11日にはYahoo!で【3.11】と検索をすると寄付に繋がるようです。同時に、こちらで少額を寄付してみました。Yahoo!では震災と復興に関する写真と記事が投稿されています。今から読んでみようと思います。
 
 
えーと、それで今日の更新なんですけど、ぼくはずっと、すぐに廃れるコンテンツを作る仕事をしていたので、その反動で、長く愛読される作品が好きになったんです。海野十三は当時の最新技術を主に扱ってきたから、ほんらいなら……たとえばポケベルの物語が現代ではまったく意味不明になるように、すぐに読めなくなるはずのことを書いてるはずなんですけど、何年経っても、新鮮に読めるのがすごいなと思います。それだけ普遍的な事柄を抽出して書いているから、何年経っても読めるんだと思うんです。
 
 

野村胡堂が、海野十三の小説世界とあまたの読者について語っています。海野十三の作品は「透明猫」「発明小僧」「幽霊船の秘密」「見えざる敵」「什器破壊業事件」「鍵から抜け出した女」が読めます。
 
 
それから「海野十三敗戦日記」で、作家が空襲時と敗戦時にどのように生きていたのかを、垣間見ることが出来ました。これ以外の作品もいつか読んでみたいなあと思います。
 
 
野村胡堂は、こう記しています。
 
 

…………
 その青年は今はもう立派な弱電気の学者になり、さる学校で教鞭を執っているが、今でもなお海野君の愛読者たるに変りはなく、海野君に満腔の好意を持っていることを私は知っている。
 海野君の強さは、んなところにあったと思う。あの作品に通じている特色は、海野君の聡明さと、あの魂の美しさだ。
…………
 
 

 
 
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与謝野晶子詩歌集(11)

今日は「与謝野晶子詩歌集」その11を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
「花を見上げて」という詩が美しいです。今回のはいかにも明治大正時代の詩歌だなあーと思いました。骨董品を鑑賞するような、魅力もあるように思います。
 

花を見上げて「悲し」とは君なにごとをひたまふ。
…………
 
 

 
 
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白痴(19) ドストエフスキー

今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その19を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 

この訪問は彼にとっては危険を帯びたものであった。
 
といった文章で始まる今回の物語なんですけど、主人公のムイシュキン公爵はついに、暴漢ロゴージンの邸宅を訪れます。公爵は、冒険者みたいな役割も担っていて、その無垢な性格で、どんなところにも入ってゆくという印象があります。小説といえば、探偵とか刑事とかが居て、そのおかげで、いろんなところに潜入できて物語が奥深くなってゆくんですけど、ムイシュキンは無垢であるからこそ、どこでも勝手に歩けるわけで、特別なところまで入ってゆける。
 
 
ムイシュキンは、ほんらい見つけられないはずのロゴージンの住み家を一瞬で見つけてしまう。そういう超越した知力を彼は持っている。
 
 
暴君ロゴージンとナスターシャは結婚する可能性が高いんですが、非常にややこしい状態になっていて、この2人の間に立っているのが、異人のような存在のムイシュキン公爵です。彼は、ナスターシャがとても混乱をしているから、無理やり急いで結婚をするのは勧めず、彼女はいったん外国で保養をしたほうが良いと考えている。公爵は、結婚の邪魔はしないのですが「君といっしょになるのはあの人の破滅だ」と……「君にとってもまた破滅なんだ」と何度も忠告をしている。ふつうは……考察をせずにただ邪魔をするっていうことが現実には多いと思うんですけど、公爵はまるで逆で、普通じゃ無い。公爵の知力は、飛躍しているところがあって、予言的なことを急に言うんです。
 
 
「おまえを引っつかまえ何か毒でもくらわして殺してやりたかった」とさえ言うような暴君ロゴージンの前で、公爵はこう述べます。

僕はあのひとを『恋で愛しているんじゃなくて憐憫れんびんの情から愛している』んだよ。
 
結婚寸前の男女の間に入って、非常に危険なことを言っています。ムイシュキン公爵は、保身ということを考えないで、大事だと思うことをはっきり言う人なんです。だからこそ、あらゆる人から好まれているわけですけど……読んでいるだけでおっかない。
 
 
ロゴージンの凶暴さは、ものの考え方からにじみ出しているように思うんです。「おれはあの女に憐憫なんて少しも感じないんだ。それにあの女は何よりもひどくおれを憎んでいるんだ」と述べるんですが、混乱をしているフィアンセに対して、あり得ない心情です。普通なら、婚約を解消して無縁にならなきゃいけない。けれどもロゴージンは大金をかき集めるように、憎しみを自分の手元に集めてゆくんです……。話しを聞いていると、もう既に、ナスターシャに対する暴力が行われていた。
 
 
ドストエフスキーの父は、村人たちとの諍いの末に身罷った……ということを考えながら読むと、ロゴージンの人格の異様さにどうして自分たち読者が引き込まれてゆくのか、その理由が判るような気がしました。
 
 
次回に続きます。
 
 

 
 
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恋愛論 坂口安吾

今日は坂口安吾の「恋愛論」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
坂口安吾は、題名がいつも直接的すぎてギョッとするんですけど、今回も面白い随筆でした。坂口安吾の文章は、レトリックとユーモアに溢れていて、普通の日本語とまったくようすが違うんです。最初の三行がすごいです。戦後2年くらいで発表されたもののようです。 
 
 
戦後には、日本語の整理というのが行われて、それで旧字が簡潔に書ける新字体に改められて「體」という文字は「体」に改められていった時代で、文章が読みやすくなっていったんですけど、坂口安吾は日本語の不味い特徴をこのように指摘しています。

日本語の多様性は雰囲気的でありすぎ、したがって、日本人の心情の訓練をも雰囲気的にしている

実はわれわれはそのおかげで、わかったようなわからぬような、万事雰囲気ですまして卒業したような気持になっているだけの、原始詩人の言論の自由に恵まれすぎて、原始さながらのコトダマのさきわう国に、文化の借り衣裳をしているようなものだ。

まさに自分が陥ってしまっていることを論じていて、みごとな指摘だなあと思いました。坂口安吾を読んでいると、現代の優れた小説の、骨格とか土台とかが見えてくるように思うんです。坂口安吾は「人間の生活というものは、めいめいが建設すべきものなのである。めいめいが自分の人生を一生を建設すべきものなので、そういう努力の歴史的な足跡が、文化というものを育てあげてきた。恋愛とても同じことで、本能の世界から、文化の世界へひきだし、めいめいの手によってこれを作ろうとするところから、問題がはじまるのである。」と指摘している。論理的な人だと思いました。
 
 
「人生においては」という書きだしから「物自体が詩である」に至るまでの文章が凄くて、衝撃を受けました。
 
 

 
 
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与謝野晶子詩歌集(10)

今日は「与謝野晶子詩歌集」その10を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
与謝野晶子は、こういう美しい歌を書いています。

やは肌のあつき血汐にふれも見でさびしからずや道を説く君
 
「易者に」という詩や、幼いころを描きだした随筆を読んでいても思うのですが、近代の歌人の中では特別に、批評の精神が色濃い。与謝野晶子は詩で批評を行うんです。その批判の力強さが、豊かで長期的な実人生に通底しているように思えました。
 
 

 
 
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白痴(18) ドストエフスキー

今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その18を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
主人公のムイシュキン公爵は、この小説の題名どおり「白痴」と呼ばれて馬鹿にされてきたんですが……。脇役にコーリャ(コォリャ)というのがいるんです。彼はムイシュキン公爵を尊敬している。本文こうです。
 

コォリャがあなたのことを言っていましたよ、世界じゅうであなたより賢い人には今まで出会ったことがないって……

ぼくもムイシュキンは頭が良いと思うんです。なんせ文豪ドストエフスキーが書きたくて書いている人間なので、ドストエフスキーが聡明なように、ムイシュキンも聡明なように思います。作中に於ける主人公の考察がすごいんです。けれどもムイシュキン公爵は、周囲からはあからさまに馬鹿にされている。どうしてか探ってみると、やっぱり自分の未来のことを、ほとんどほったらかしにしてるからなんじゃないかと思いました。だから結婚も出来ないし家族も居ない。
 
 
ほんとに本文とまったく関係無いんですけど、哲学者のウィトゲンシュタインの魅力と通底しているところがあると思うんです。20世紀最大の哲学者と言われているウィトゲンシュタインは自分の将来のことをまったく考えずに戦場の最前線に自ら行ってしまった。当時は強制的な徴兵制は無かったので、本来なら最前線に行く必要は全く無かった。彼は極めて頭が良いので、そこでの生存率が20%以下で8割がた死ぬんだという史実については、行く前から認識していたと思うんです。つまり彼は論理哲学論考を後の世に残さなくっても、かまわない、と思っていた。自己顕示欲の乏しい哲学者だった。どうして死亡率の高い戦地に自ら赴いたのか調べていて、ちょっと判ったことがあるんです。ウィトゲンシュタインは、戦場に行く前にまず、みずからの国籍を公式に抹消して、外国人になろうとしていた。ところがお役所仕事の役人から、無国籍になることは出来ないと拒否された。その瞬間に、じゃあ戦争に行くしか無い、ということで彼は戦争に行った。ヴェーユと同じで、他人の犠牲を強いている状況では学問が出来ず、身近で困窮している人と同等の生き方をしなければ、自身の哲学に反するとかんがえて、死にかねない行動に出たようなんです。ウィトゲンシュタインがなぜ戦場に行ったのか、いろんな説があるんですけど、ぼくはこれを調べていて、ヴェーユと似たことを考えて戦場に行ったんだと考えました。
 
 
えーと、それで半年ぶりにペテルブルグの人々に出逢ったムイシュキン公爵は、こんかいレーベジェフという人物に向かいあいます。小悪党みたいな性格で、なんとも妙な脇役なんです。作中、このように記されています。

 レーベジェフその人が、はいってくる公爵のほうに背中を向けて立っていた。
 「公爵、さ、さ、さま!」とだけかろうじて言った。

レーベジェフは、「しょっちゅう嘘ばかり言っている」男で、それから弱い者をおどしてやろうという変な性格をしている。「レーベジェフはまだ脅かしてやろうと、逃げてゆく女の子の後ろで足を踏みならした」とか作中に書いてある。
 
レーベジェフはどなりつけた。「貴様というやつは!」彼は床を踏み鳴らしそうにした。だが娘はただ笑っている……
 
 
レーベジェフと甥の二者で、金を貸す貸さないという、奇妙な諍いが起きるんです。レーベジェフの発言は、たいへん訝しい。いぶかしい語り手なんですけど、じつは、ドストエフスキーの人生において重大だった死刑制度やあるいは聖書の論考を、レーベジェフの発言として記しているんです。ドストエフスキーほど、人物の書き分けがみごとな人は居ないと思うんですけど、じつは作者の人格と共通するところが、いろんな登場人物から垣間見られます。公爵はコーリャとナスターシャを探している……次回に続きます。
 
 

 
 
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透明猫 海野十三

今日は海野十三の「透明猫」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
これは少年向けの短編小説なんです。透明な猫が居たら、いったいどう付きあえるのか……というすこし不思議な物語です。なんだか明るい冒険譚で、途中でインチキな見世物をやる男が現れる。インチキをやってる最中に「インチキではございません」っていうのがおもしろい。
 
 
本文と関係無いんですけどいちど大道芸で……糸のついていない人形を、生きものみたいに華麗に踊らせるマジックを見せている人をまちなかでじっさいに見たことがあるんですけど、10年後になってYouTubeで調べても、あんなに上手に目の前で手品をしている人はめったに居ないなあ、貴重な体験だったなあと思いました。たぶん磁石と風を使って、操り人形をみごとに踊らせていたんだと思うんですけど。
 
 
「透明猫」は、生きものが透明になる物語なんですけど、だんだんハナシがでっかくなってゆく……海野十三は50年以上前にこれを書いたのに、今でもちゃんと楽しませるって、当時読んだらもっともっと驚いただろうなと思いました。


ちゃんと科学的な仕掛けもあって、ほんと上手い。H・G・ウェルズの小説からヒントを得て書いたんだろうと思うんですけど、みごとなSF近代小説でした。
 
 

 
 
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