ハイネ詩集(85)

今日は「ハインリヒ・ハイネ詩集」その85を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
ハイネ詩集は次回で終了です。次の詩集をいま準備しているところなんですけど、ハイネは今のところ、ネットでこれ以上読める詩がもうないです。
 
 
そろそろ読み終えてしまうなあ、と思いつつ読んでいるんですけど、作者のハイネは、ほんとうに詩を書き終えるんだという意識があって、そのことを詩に記しています。
 
 
「おまへはまた美しい手をふりしぼりさへもするだらう」という詩の言葉が印象的な今回の詩を読んでいて、ハイネは正直な詩人なんだと、改めて思いました。随筆みたいな詩なんです。前期から後期まで順番に読ませてくれた翻訳者の生田春月に感謝したいなあと思いました。こんな詩もありました。
 
 

こんなにはげしく燃え上つてゐる恋の火は
我々の心の滅ぼされたとき何処へ行くのであらう?
それはもと出て来たところへ帰つて行くのであらう
あはれな亡者どもの焼き苦しめられてゐる地獄へと
 






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保護職工 森竹夫

今日は森竹夫もりたけおの「保護職工」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
このサイトでは、なんだか有名な古典的作家をおもに読んでいるんですけど、今回はあまり知られていない作家の、まるで随筆のように平明な文体の詩を読んでみました。森竹夫とはいったい誰なのかぼくには判りませんでした。1946年の敗戦の翌年に亡くなっている方です。どういう詩人なのか、一作だけではよく判らないのですが、気になるのでこんど調べてみようと思います。どうもプロレタリア文学を主にやっていた詩人のようです。
 
 
七十年後に詩が一つだけ残った作家って、すてきだなあと思いました。
 
 

 
 
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白痴(7) ドストエフスキー

今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その7を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 

ムイシュキン公爵は、初対面のあいての人格を突如言い当ててしまうという奇妙な力を持っている。ちょっと占い師みたいに、極端に飛躍した直感的な思索が繰り広げられるんですよ。
 

彼は何事かを思い起こしたように、ふと立ち止まって、あたりを見回し、窓の光のさすほうへなるべく近く寄り添って、ナスターシャ・フィリッポヴナの写真を見つめ始めた。
 
ここから先の、ヒロインの表情や美に関する公爵ムイシュキンの考察がすてきなんです。ナスターシャの顔は女性から見ても、驚かれるほど美しい。「こういう美しさは力ですわ」「こんな美しさをもっていたら、世界をひっくりかえすこともできるんだわ!」と熱心にアデライーダが述べるんです。
 
 
それから人びとはさまざまな話しを続けてゆく。この物語「白痴」の主人公ムイシュキンと一緒に、知らない事情を垣間見てゆくわけなんですけど、ちょっと初見では、よく判らないわけです。これが上手い仕組みになっているように思えて、異邦人というか通りすがりのような存在であるムイシュキンの聖性というか闖入者としての存在感というか、そういう性質が、この物語をのぞき見ている読者にも同時に付与されているように思うんです。
 
 
ドストエフスキーは、題名どおりに「白痴」の魅力を書き記していて、「罪と罰」では知を突き詰めた犯罪者の心理を垣間見ていったわけですが……今回は聖性を伴う愚が描かれてゆく。ドストエフスキーのカメラワークと人物配置が、読者を未体験の感覚にいざなってゆくんです。
 
 
あと、小説には良くある「お使い」の場面がある。これはしかし、どういうことなんだかちょっと、唐突すぎてよくわかんない。
 
「ガヴリーラ・アルダリオノヴィッチさんが、これをあなたに渡してくれとのお頼みでした」と、公爵は書面を渡しながら言った。
 アグラーヤは立ち止まって書面を受け取ると、なんとなく不思議そうに公爵を見た。
 
ガーニャから届いた手紙を、アグラーヤは他人にあえて見せるんです。そうしてアグラーヤは、ガーニャの抱く不信感について鋭く批判します。
 
ずうずうしくあのひとが嘘をついてるんです。わたしはたった一度、可哀そうだって言っただけなんですからね。それを、あつかましい恥知らずなもんですから、すぐに当てにしてもいいような気になったのですね
 
じつに不思議なところに公爵は入りこむんです。男女の仲が険しいものになっているところの、真ん中に立たされる。ドストエフスキーは、展開をくり返して重層化するんですけど、今回のガーニャとアグラーヤの諍いは、おそらく他のところで別のカップルでくり返されるんだろうと思われます。
 
 
公爵は不和の中間のところに立ってしまう。なごやかな二人の真ん中に猫がすっと入っているみたいなのの、逆の存在というのか、問題のある危険地帯の中間にぐーっと入って行ってしまう公爵ムイシュキン。
 
 
ガーニャはムイシュキンに対してもものすごい敵対心を抱いて直接悪口を言ってくるのに、なぜかムイシュキンは正直に接してしまう。次回に続きます。
 
 

 
 
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ネットで買える本

今日もちょっと、ネットで買える本を紹介してみます。
 
 
Kindleアンリミテッドが今セール中で、月額100円で読み放題なんですけど、ちょっと調べてみると、実際に読める和書はだいたい10万冊くらい。雑誌やビジネス書や、マンガの第1巻が多いんですけど、とりあえずこれで文学を読んでみたい場合は『光文社古典新訳文庫』がオススメです。長く愛読されてきた文学作品が、読みやすい文体で翻訳されています。ぼくはこれでカラマーゾフの兄弟を読みました。
 


 
 
あとこの、「ゆかいないきもの図鑑」というイラスト図鑑がなんだかおもしろかったです。手書き文字で構成された、子ども向けの動物図鑑なんですけど、知らないことがいっぱい書いてありました。ワニが池から顔だけ出しているとき、じつは二本足で立っている。ミーアキャットみたいな二本足で起立した状態に、なれるワニがけっこう居るそうです。絵本で見た二足歩行のワニは、じつはけっこう現実にありえる姿みたいです。あと、人参やカボチャを食べ続けると、動物も人間も、肌が一時的にオレンジ色になるとか、不思議な雑学がいろいろ書いてありました。
 
 





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ハイネ詩集(84)

今日は「ハインリヒ・ハイネ詩集」その84を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
三人のおばあさんを描いた詩なんですけど「一番目の女」「二番目の女」と記されてから「三番目」には運命神パルツエがやって来る。この独特な言葉のリズムが、詩なんだと思いました。
 
 
とうの昔にハイネはこの世を去っているわけですけど、そのハイネが後期にこういう詩を書いていて、なんだか奇妙な詩だと思いました。
  

わたしの身体からだは墓場に横はつてゐる
けれどもわたしの精神こゝろは今でも生きてゐる
彼はまるで家の霊でゞもあるやうに
おまへの胸に住んでゐるのだ、かはいゝ人よ!
 
ハイネのひ孫にでも宛てた詩なのだろうかと、思いました。ハイネ詩集はあと2回で終了です。
 
 


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美男子と煙草 太宰治

今日は太宰治の「美男子と煙草」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
ぼくは太宰治をほとんど読めていないんですが、短編はいくつか読みました。読むたびに引き込まれます。サービス精神が旺盛な純文学作家のように思います。自身を戯画化するのが上手いから引き込まれるんですけど、このような技法は、これより少し前の時代の、鴎外や漱石や藤村や芥川には見受けられない方法だと思います。
 
 
どこにこの、太宰のように自己をキャラクター化する方法の先祖があったのか判らないですし、他の近代作家は海外文学を引用し模倣するところから自作を構築していったのに対して、太宰治は一人で技法を開発したのではないかと思いました。三人称で社会を書くのか、一人称で個人を書くのか、という二つの近代文学観がある中で、太宰治は一人称なのに一人称が客体化され戯画化されてゆく……。
 
 
タイトルの「美男子と煙草」というのもなんだか妙で、美男子というのは作者太宰のことですよ。それから上野で野宿している家の無い少年たちについて、美男子と記している。このような書き方は誰にも真似が出来ないすごく独特な方法に思えます。僕が読んだ範囲では、ダンテ「神曲」の主人公の描き方くらいでしか、見たことがありません。物語の後半、太宰の人情というかいつくしみの思いが記されていて、感銘を受けました。
 
 

 
 
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白痴(6) ドストエフスキー

今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その6を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
近代の魅力の1つに、システム化されていない部分が色濃くあって、そこにおもしろさが宿っている、というのがあると思うんです。現代ではいろんなルールがはっきり決まっていて、どっちつかずの人とか、トリックスター的な人物の居場所が乏しい。ところがドストエフスキーの白痴の主人公は、小学校というようないかにもシステム化されているはずのところに、特別枠としてすっかり入りこんでいる描写があったりする。本文こうです。
 

いつも僕は、あちらでは子供とばかり、ただ子供とばかりいっしょになっていました。それは、みんな僕のいた村の子供たちで、連中はいずれも小学校へ行っていました。僕が教えていたわけじゃないんです。違います。教えるのには、ちゃんと学校の先生でジュール・ティボーという人がついていました。もっとも、僕も教えることは教えたことになるかもしれませんが、どちらかというといっしょにいたというだけのものです。そうしてまる四年も過ごしたわけです。
 
それどういう状況? と思うんですけど、ムイシュキンは、なんだか普通なら入らないところに入りこんでしまう。むかしはあいまいなシステムで物事が運営されていたから、主人公は即座には追い出されないのかもなあ、と思いました。ムイシュキン公爵はこんなことを言うんです。

まだ小さいからとか、聞きわける年にはなっていないとかいう口実をつくって、何事によらず、子供に隠す必要はないことです。これこそ実に悲しむべき、不幸な物の考え方です! 子供は、親たちが自分たちをすっかり赤ん坊あつかいにして、なんにもわからないものと思い込んでいることを、実によく見抜いています。

若い頃にドストエフスキーに耽溺した男が父親になって、こういう教育方針を持ったりしたこと、あっただろうなあと思いました。ムイシュキン公爵は、大人たちからすごく警戒されたり、子どもたちから石を投げられたりもするんですけど、変なことだけを言うわけでは無いんです。うわっと思うことを言ってくる。もう、発言を読んでるだけで楽しいんです。公爵はこんなことを言う。

われわれはお互いに何一つ子供に物を教えることはできないのに、子供たちは僕たちに物を教えてくれる

「子供と暮らしていると、魂はなおるものです」とか言う。結婚できない男なのに。
 
 
公爵は哀れなマリイの話しをするのでありました。この短いマリイの物語が、どうもこの小説の全体像とも共鳴しているように思います。作中で「迫害があったために子供たちとはかえっていっそう親密になりました」という公爵の発言が妙に気になりました。そういうことってあるんだろうか……。それから、ドストエフスキーの書き記す「システム」という言葉。これがじつに不思議な表現なのでした。
 
 
ムイシュキンは、大人でもない子どもでもない、賢いような馬鹿なような、なにか特殊な存在として描かれてゆきます。あとドストエフスキーはじつの子どもへの愛があったわけで、作中の公爵は完全にひとり者の独身者で、その二重性が魅力になっているんじゃないだろうか、とか思いました。
 
 

 
 
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