いまわれわれのしなければならないこと 宮本百合子

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 今日は宮本百合子の「いまわれわれのしなければならないこと」を公開します。
 縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
 これは、宮本百合子が戦後に記した、ごく短い評論です。今回も、宮本百合子と中野重治という2人の文学者の戦中戦後についてのメモを書き記しておこうと思います。中野重治氏は戦中に詩を中心としたプロレタリア文学の文芸活動を展開し、小林多喜二が特高に拷問され亡くなるという同時代に捕まり転向を強要されました。生き残った戦後に峠三吉の原爆詩集の出版と解説文執筆に努めていたということを知り、この解説文を図書館で調べてみました。中野重治氏が記した《『原爆詩集』について》の一部を紹介しようと思います。中野氏は、戦時中に軍国主義に抵抗して特高に捕まり、やむなく「転向」し、軍隊に従属しながら生存します。その時期に兵士としてどのようなことをしたかを記しておられます。1945年6月から9月という太平洋戦争の最終状況において、中野重治氏は長野県の中塩田村に兵隊として住んでいました。そこでは、敵機B-29を打ち落とすための戦闘機製造のための、地下工場の建設計画がありました。地下に工場を作らないと爆撃されて飛行機が作れなかったのです。正確に引用してみます。引用元は「日本の原爆文学15 評論エッセイ/ほるぷ出版」からです。
 
 

     その頃日本の空はB二九の翼でおおわれていたが、日本の政府は、このB二九をうちおとすための特殊な飛行機をつくろうと考えていた。それはC五七と名付けられ、地上ででなく地下で組みたてられねばならなかった。そこで地下組みたて工場をつくらねばならない。その工場を入れるための大きな穴を掘らねばならない。この穴を、千曲川沿いの土地に、桑ばたけをつぶし、小ゆびほどになったさつまいもの蔓を引きぬいて掘るのがわたしたちの任務であったが、そのころの模様を思い出してみると、C五七という特殊飛行機の設計図だけでもが出来ていたかどうかはなはだうたがわしい。地下工場のための穴掘り作業は、穴を掘るということがほんとうの目的であるか怪しいというようなテンポで進められていた。
 
 
 中野重治氏は、当時茶碗や箸さえも手に入れることが出来ないので、ナイフで自作するか自宅から持ち込むかするしなかなったと述べています。その厳しい時代のことを「わたしたちのあいだには一種の自由があった」と記しておられます。今日死ぬか明日死ぬか判らないという時期に、自由を感じるというのがすごいです。中野重治氏の言説とその時代の出来事を見てゆくと、その判断力の土台となっているのが危機に直面し状況を冷静に分析しながら、楽観するという態度にあるのだと思いました。また戦中戦後の描き方というか言説の記し方に余裕があって、ちょうど夏目 漱石のこの評論文の4ページ目に記されている、「余裕のある言説」というか「不断着のことば」とでも言うような文章で、事態を落ち着いて客観視できるようにしてくれているように思えました。
 
 
 中野重治氏は、完全に情報が不足している部隊の中で、地面に穴を掘るだけというでたらめな仕事を強制されながら、新聞配給所で配られる寸前の刷りたての新聞をなんとか無料で読もうと工夫していて、状況分析と言うことについてたいへんなこだわりを持っていて、こういうところが長生きの秘訣なんだというように思えました。
 
 
 それから中野氏は、1952年6月に記されたこの峠三吉の解説文にて戦後の問題点というのを指摘しておられます。それは原爆の苦しみが隠されていたということと、一部の人びとによって説教される「原爆投下にわれわれは感謝するべきである」という間違った思想に対する批判を行っているのですが、これは21世紀の日本でも幾度か問題となった事柄です。また、中野氏は「新しい原爆投下を強迫として振りかざす勢力と」たたかわなければならないと指摘しているのですが、これも広島長崎の原爆投下から65年以上経った現代の世界中の人びとに対して訴えうる重要な問題だと思われます。太田洋子の「屍の街」や長田新の「原爆の子」にも言及し、中野氏はこう述べます。
 
 
     忘れることのできぬ悲惨を芸術に肉づけ、こういう悲惨が断じてくりかえされぬことを願い、そのことを人間として要求する
 
 
 この「要求する」という言葉に重みを感じました。また中野重治氏は、悲劇をまたとないきっかけとして捉えて原爆加害者の側へ国と国民とを渡した勢力をも、芸術特有の鋭さで強く非難する、ということの重要性も説いています。中野重治氏は、静かな態度とつつましい形で困難を読み解いてゆくことを作家として大切にしている、と書いておられます。
 
 
 この宮本百合子の「いまわれわれのしなければならないこと」はごく短いエッセーです。あくまでも暴力に抵抗する、平和を自ら要求しかちとるという理想が語られています。
 
 


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