白痴(33) ドストエフスキー

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今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その33を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
ドストエフスキーは、たった1日にあらゆることを凝縮していて、他の1日では代替できない、という強迫観念めいた、なんでしょうかニーチェの言うところの永劫回帰のような、ある区切られた時間を異様に重大視するという姿勢があって、そのために読んでいて緊張感があって読み応えがあるんだと思いました。じっさい、ドストエフスキーが文学の中に創りだした時間は、時代と語族の壁を越えて、この日本のそこいら中で、くり返しくり返し再生されて復活を果たしているわけですし、作家にそのような数多の時間を作り出す、という認識があったように思われます。
 
 
今回は、余命幾ばくも無いイッポリットが、この重大な夜通しのパーティーを逃さずに見届けたいという願望を持っていて、病身であるにもかかわらず徹夜を目指していて、ほんの数分だけ眠ってしまっただけで、青くなって焦るんです。それだけ、公爵と同じところに居ることが大切だと考えているようです。そのイッポリットの発言はこうです。
  

公爵は美なるものが世界を救うと主張してらっしゃるんです! けども、僕は断言しますけれど、公爵はそんな遊戯的な思想をもっているのは、恋をしているからなんです。皆さん、公爵は恋をしてるんですよ。さっき、公爵がここへはいって来られた時……(略)……いったいどんな美が世界を救うんです?

イッポリットは、こんご長く生きる時間を持たず、成し遂げられないことがあるので、他人が得られるはずの自由について深い思い入れがあるようです。イッポリットはとくに公爵が好きだというわけじゃないんです。それは両者共に確認し合ってるんです。けれども異様なこだわりがある。

「明日になれば、『こののち、時は延ぶることなし』ですよ!」イッポリットはヒステリックな薄ら笑いを浮かべた。

この……ある1日に対する極端なこだわり、というのは、ドストエフスキー独特のもので、それは死刑執行が来る日を監獄で待つ1日を実際に経験したこととか、三角関係の恋愛で泥沼の時間があったのだとか、それから今日こそギャンブルで大いに勝たねばならないんだという……現実のドストエフスキーの性格と強い結びつきがあって、物語の中で「この時」への偏執的なこだわりとなって現れるんだと思いました。ほかにも聖書が述べる時間についても言及しています。

ところで、公爵、誰が『こののち、時は延ぶることなし』(黙示録第十章第六節に出る)と宣言したか、覚えてらっしゃいますか?それは黙示録の中のおおきな、力強い天使が宣言したのですよ

イッポリットは奇妙な文章を書いてきて、ここで発表すると言いはじめる。余命二週間となった男の、長い告白なんです。普通の小説って、主人公に意識が集まるように、脇役はあっさりとした描写になるはずなんですけど、ドストエフスキーは脇役がすごいんです。周囲をぼかして中心にライトをあてるような技法じゃ無くって、隅から隅まで詳細に描いてしまうのがドストエフスキーなんだと思いました。
 
 
イッポリットはムイシュキン公爵を五か月にわたって憎んでいたけど、それがさいきん和らいできた。その時に考えていたことを詳細に記しています。ムイシュキンは他人の問題について、異様なこだわりがある性格をしています。

あのとき、私はいかばかりむさぼるように興味をいだいて、世の人々の生活に眼を注ぎ始めたことであろう。あれほどの興味は、前には絶えてなかったのだ。……(略)……私はあらゆる小さなことを穿鑿せんさくして、あらゆる風説に興味を動かし、ついに一人前の告げ口屋になってしまった観がある。私には、たとえば、なぜ世間の人たちはあれほど長い生活を与えられていながら、金持になれないのか、というようなことがどうしてもせなかった
 
自分にできないことが判るようになると、自分とぜんぜんちがう人の動向に妙に注目してしまう事ってあると思うんです。作中でロスチャイルド家について言及があって、驚きました。ドストエフスキーの時代からトランプ政権の時代まで、貧富の問題がずっと続いている。wikipediaには「ロスチャイルド家を勃興させたのはマイアー・ロートシルト(1744-1812年)である」と書いていました。
 
 
本文と関係がないんですけど、20代の頃は体調が悪化して死ぬことはほとんど無い感じなんですけど、年齢があがってくると現代でも自然死的に亡くなる人がふつうに出てくる。とくに今の時代は、自分が好きな漫画家とか音楽家とかゲーム作者とかがいつどういうように亡くなったのか、かなり詳細に知ることが出来るわけで、そのオンライン日記まで読めてしまうわけで、自分ももうすぐ普通に病死するのかもしれないとか、年齢で比べてみて思うことがあるわけです。死亡率を調べてみると数字でもたしかに死亡する確率が高まってることがわかる。そうなると、自分があと50年間健康に生きるのか、それともかなり時間なく死んじゃうのかが、意外とどちらの可能性もある。シュレディンガーの猫じゃ無いのに、すっごく長いこと生きちゃう自分と、ほとんど時間が無く死ぬ自分と、かなり異なる2人の自分が、自分の中に同時に居るわけで、この感覚すごいなと思います。ドストエフスキーを読むまでそんなことを考えなかったんですけど、もうすぐ自然死しちゃうかもしんない、という感覚が、氏の文学を読んでいると生じてくる。
 
 
ドストエフスキー本人がまさに、国家から死刑宣告を受けたり、父が謀殺されるように亡くなったり、持病が原因で死ぬ可能性を感じている。それが今回、不治の病のイッポリットに憑依して、物語が展開されていました。イッポリットは、夜に見る悪夢について滔々と語るのでした。その悪夢の描写がじつに文学的でした。カフカの描く怪物にかなり似ています。あらゆることを描けたドストエフスキーが、作中でイッポリットの発言として、こう記しています。

何びとかの脳裡に生じたあらゆるまじめな思想の中にさえも、どうしても他人に伝えることのできないものが何かしら残っていて、たとい多くの書物を書き埋めても、三十五年もかかって、その思想を解説しても、けっして頭蓋のなかから出て行こうとせず、永劫に自身の内部にふみとどまっているような何物かが残っている。

「人々はおそらく自己の思想のうち最も重要なもの」をけっして伝えることはできないのだ、と言うんです。次回に続きます。
 
 

 
 
こちらのリンクから全文読めます。白痴は第50回で完結します。縦書きブラウザの使い方はこちら
https://akarinohon.com/letters/dostoevskii_hakuchi33.html
(約30頁 / ロード時間約30秒)
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