今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その27を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
ドストエフスキーの作品には、誤解が原因でひどい暴言にさらされる人がしょっちゅう現れるんですけど、誤解が解けると、恨みがさっぱり消え去ってしまう、というのが良くあるんです。じっさいこれまでのはなしでは、主人公ムイシュキンが悪漢ロゴージンからあらゆる難儀を受けているんですけど、それについてなにか恨みを抱いたりするところがないです。
えーと、近代の西欧とロシアの小説を読んでいると、馬車というのが象徴的に出てきます。これは現代で言う高級車よりもさらに迫力のあったもんなのかもしれないなと思いました。ナスターシャはガーニャの家族と対立しているんですけど、世間とは意外と上手く関わっているようで、こういう描写がありました。
ナスターシャ・フィリッポヴナはきわめてつつましやかに身を持して、衣裳も派手ごのみではなく、というよりはきわめて優れた趣味が現われているので、貴婦人たちは彼女の『趣味、美貌、幌馬車』を羨望してやまない……
ナスターシャはこの物語の中でもっとも重大な人物なんですけれども、登場回数は意外と少ない。たいていはナスターシャ不在で物語が進展します。ナスターシャはまず、ガーニャと結婚するはずだったけど、彼とものすごく仲が悪く、どうも他の人と結婚しそうである、というところから物語が始まっています。初めはガーニャの人格に問題があるのかと思われたんですが、どうもそれだけではない。
ナスターシャの不在、ということがそもそもこの物語に於いて重要なモチーフになっているようです。あの温和なはずの主人公が、こういうことを考えるんです。
……あの女には恐れるべき目的があるに違いない。とすれば、どんな目的であろうか? 戦慄すべきことだ!『それなら、どうしてあの女を思いとどまらせたらいいのであろう? あの女が自分の狙いを定めたとなると、どうしても思いとどまらせることは不可能だ!』それはもう公爵が今までの経験でよく知っていることである。
ケルレルはムイシュキン公爵から金を借りたくってこんなことを言います。「あなたの淳朴な気持に接するだけでも楽しいのです。あなたと膝を交えて語るのは愉快です。少なくとも、今、僕の前にいるのは最も善良な人だってことがよくわかりますからね」公爵はこういうのはただのお世辞だと分かっている。不思議なことに、作者はお世辞じゃ無くって主人公を淳朴で善良に描こうとしたわけで……お世辞なのにほんとのことを書いたりしている。
公爵はケルレルの考えてしまった「悪魔のような考え」のことを理解している「この二重な考えと闘うのは恐ろしく困難なのですから」と助言さえするんです。
それからコーリャがこういうことを言うんですけど……
ワーリヤがとても可哀そうなんです、ガーニャも可哀そうです……二人は、いつもきっと、何か悪企みをしているに違いないんです。
この文章の後の記述が印象に残りました。ふつう憐れみの対象は、無辜の者として美化してしまいますよね。ドストエフスキーはそういうことをしないで、可哀想な奴は悪いことをする側面がある、と考えているようなんですよ。一人の人間について、善悪の両面を見ているところが氏の特徴なんだと思いました。
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幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。
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