白痴(28) ドストエフスキー

今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その28を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
主人公ムイシュキン公爵が、美人のアグラーヤに送った手紙のことで、親戚のお母さんであるリザヴェータは、たいそう憤慨している。恋文を送ったんじゃないかと危ぶんで、これを検分する事態にまで発展した。じっさいの手紙の文面が検証されてしまったりする。
 
 
「あの子は甘やかされてきたもんだから」わがままだと母のリザヴェータは言うんです。娘のアグラーヤはどうもほんとに主人公を気に入ってしまったらしい。「気に入ったとなると、きっと大きな声で悪口を言ったり、面と向かい合っていやみを言ったりするんですよ。私も娘のころはちょうどあれと同じでした」と述べて、絶対にアグラーヤと結婚しないように説教するんです。公爵は真っ赤になってうなずいた。本文こうです。
 

わたしはあんたをまるで神様のように待っていました(ところが、あんたはね、それだけの価値のない人でした!)。わたしは毎晩、涙で枕を濡らしましたよ。
 
ドストエフスキーは重大な会話文のところで(かっこ)をつけることがたまにあるんですけど、これ、どういう音声なんでしょうか。ひそひそ話の部分と言うよりも、つけ足して言う感じなんでしょうか。それとも黙考している部分なんでしょうか。
 
 
近代の日本文学で、血の通った女を描ける人がすごく少ないと思うんですけど……、ドストエフスキーは女の描写も迫力があるなあと、改めて思いました。今回の終盤おもしろいんですよ。白痴を全文読まないけど、どういう小説なのか知ってみたい方は、今回の白痴28(第二編 十二)を読んでみてください。10分くらいで読めますよ。
 
 

 
 
こちらのリンクから全文読めます。(縦書きブラウザの使い方はこちら
https://akarinohon.com/letters/dostoevskii_hakuchi28.html
(約30頁 / ロード時間約30秒)
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外米と農民 黒島傳治

今日は黒島傳治の「外米と農民」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
近代になぜ興味がわくのかというと、そういった本が0円だというのもあると思うんですけど、今と地続きなのに、まったくちがう世界を知ることが出来て、そこが魅力になっていると思います。古い漫画に「未来人」という銀色のタイツをはいたカッコ悪いかんじの人が出てくるんですけどああいうかんじで未来を知っていながらその時代を読んでいるわけでそこがちょっと面白いんだと思えてきました。
 
 
干ばつのために、米農家がうまく稼げずに、安価な外米を食べている事情について記されています。玄米というと現代では健康食なんですが、昔は玄米を手作業で白米にしていた。銀シャリとか言われますけど、手作業で精米していたら銀の発掘くらい手間暇がかかるだろうと、思いました。
 
 
飢饉に強い甘藷さつまいもさえ駄目になるほど干ばつがひどかった、と黒島が書いています。
 
 
米だけは、日本は国産品が一番美味しく感じられるわけで、現代でも唯一外国米が喜ばれるのはパエリアとかタイカレーに使われるインディカ米くらいなんじゃないでしょうか。調べてみるとチャーハンには外米のほうが硬くて美味しいらしく、中国人が日本食を食べると、日本のお米はちょっと柔らかすぎるように感じるそうです。

 
関係ないですけど、中国では自動でチャーハンを作る機械があるそうです。動画を見てたら、めっちゃ美味しそうに見えました。
 
 
栄養学によれば「住んでいる土地に出来るその季節の物を摂取するのが一番適当な栄養摂取方法」なのだそうです。たしかに旬の果物とか、地元の野菜は美味しい、と思います。本もそういうところがあるかもしれない、と思いました。旬の本とか映画が面白い。近代文学や古典は、干物みたいで塩分過多かもしれません。外米を工夫して炊いて食う、その詳細の描写が興味深かったです。
 
 

 
 
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与謝野晶子詩歌集(19)

今日は「与謝野晶子詩歌集」その19を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
  
 

「日和山」という詩が印象に残りました。三重の鳥羽市は志摩の日和山から見た入江のことを描いているんですけど、せる美神ヴェニユスの肌のように美しい、なにもかも微笑むような入江……これがギリシャの風景のようだ、と与謝野晶子が記しています。
 
 
みだれ髪は1901年(明治34)に発表されたんですけど、その約10年後の1912年ごろに、与謝野晶子はシベリア鉄道に乗って、モスクワを経由してパリへ渡航しています。鉄道でヨーロッパまで……すごい旅路ですね。与謝野晶子はギリシャには行ってないんですけど……もうすこしのちの時代で余裕が生まれていたら、与謝野晶子はきっとギリシャを旅して紀行文を書いて、神話を研究したんだろうと思いました。
 
 

 
 
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白痴(27) ドストエフスキー

今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その27を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
ドストエフスキーの作品には、誤解が原因でひどい暴言にさらされる人がしょっちゅう現れるんですけど、誤解が解けると、恨みがさっぱり消え去ってしまう、というのが良くあるんです。じっさいこれまでのはなしでは、主人公ムイシュキンが悪漢ロゴージンからあらゆる難儀を受けているんですけど、それについてなにか恨みを抱いたりするところがないです。
 
 
えーと、近代の西欧とロシアの小説を読んでいると、馬車というのが象徴的に出てきます。これは現代で言う高級車よりもさらに迫力のあったもんなのかもしれないなと思いました。ナスターシャはガーニャの家族と対立しているんですけど、世間とは意外と上手く関わっているようで、こういう描写がありました。
  

ナスターシャ・フィリッポヴナはきわめてつつましやかに身を持して、衣裳も派手ごのみではなく、というよりはきわめて優れた趣味が現われているので、貴婦人たちは彼女の『趣味、美貌、幌馬車』を羨望せんぼうしてやまない……

ナスターシャはこの物語の中でもっとも重大な人物なんですけれども、登場回数は意外と少ない。たいていはナスターシャ不在で物語が進展します。ナスターシャはまず、ガーニャと結婚するはずだったけど、彼とものすごく仲が悪く、どうも他の人と結婚しそうである、というところから物語が始まっています。初めはガーニャの人格に問題があるのかと思われたんですが、どうもそれだけではない。
 
 
ナスターシャの不在、ということがそもそもこの物語に於いて重要なモチーフになっているようです。あの温和なはずの主人公が、こういうことを考えるんです。
 
 
……あの女ヽヽヽには恐れるべき目的があるに違いない。とすれば、どんな目的であろうか? 戦慄せんりつすべきことだ!『それなら、どうしてあの女ヽヽヽを思いとどまらせたらいいのであろう? あの女ヽヽヽが自分の狙いを定めたとなると、どうしても思いとどまらせることは不可能だ!』それはもう公爵が今までの経験でよく知っていることである。
 
 
ケルレルはムイシュキン公爵から金を借りたくってこんなことを言います。「あなたの淳朴な気持に接するだけでも楽しいのです。あなたと膝を交えて語るのは愉快です。少なくとも、今、僕の前にいるのは最も善良な人だってことがよくわかりますからね」公爵はこういうのはただのお世辞だと分かっている。不思議なことに、作者はお世辞じゃ無くって主人公を淳朴で善良に描こうとしたわけで……お世辞なのにほんとのことを書いたりしている。
 
 
公爵はケルレルの考えてしまった「悪魔のような考え」のことを理解している「この二重ヽヽな考えと闘うのは恐ろしく困難なのですから」と助言さえするんです。
 

それからコーリャがこういうことを言うんですけど……
 
ワーリヤがとても可哀そうなんです、ガーニャも可哀そうです……二人は、いつもきっと、何か悪企みをしているに違いないんです。

この文章の後の記述が印象に残りました。ふつう憐れみの対象は、無辜の者として美化してしまいますよね。ドストエフスキーはそういうことをしないで、可哀想な奴は悪いことをする側面がある、と考えているようなんですよ。一人の人間について、善悪の両面を見ているところが氏の特徴なんだと思いました。
 
 

 
 
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料理と食器 北大路魯山人

今日は北大路魯山人の「料理と食器」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
飯を食うときに料理番組とかグルメ番組を見ることがあるんですけど、そこでいちど、数十年以上使っている銀の皿というのを見て、それがきのう買ってきたみたいにピカピカに光っていた。何十年も新品みたいに使えるっていうのは、使い手が優れていると、そんなことになるんだなあと驚きました。職人は道具を大事に使うって聞いてはいたんですけど、じっさいに職人が使う皿を見て、ほんとにちゃんと使うと、ぜんぜんちがう結果になるんだなと思いました。
 
 
あと、えーと、ぼくは電子レンジに使える、フタだけプラスチックでできた、陶器の器が便利で、いつもこれを使っています。冷蔵庫に保存する容器として使い勝手がよく、レンジでチンするとそのまんま食卓に持ってゆけるんです。麦飯の冷蔵に使えて便利なんです。
 
 
皿を見るといろいろ分かる、と北大路魯山人が記しています。
 
 

 
 
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与謝野晶子詩歌集(18)

今日は「与謝野晶子詩歌集」その18を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
  
   
日本の文学に登場するストレイシープというモチーフは、聖書から引用されていると思うんですけれど、もしかすると与謝野晶子のこの歌からもインスピレーションを受けたのかもしれない、と思いました。
 

水に飢ゑて森をさまよふ小羊のそのまなざしに似たらずや君


 
 
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白痴(26) ドストエフスキー

今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その26を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
主人公のムイシュキン公爵は……「ブルドフスキイに優しい友情と、莫大な金を提供」しようと考えた。そのため「誰一人として、公爵に嫌悪の念をいだいているものはありません」……と、周囲からはこのように思われたんです。ところが今回、これと正反対のことを言う男が、あらゆることを語り尽くします。大病を患っているイッポリットはこんなことを述べるのです。

公爵、僕は知ってますよ。あなたは、こっそりガーネチカの手からブルドフスキイのお母さんにお金を贈られたでしょう。ところで、僕は誓って言いますが、今度はブルドフスキイが、形式の繊細さがないとか、母親に対する尊敬がないとか言って、あなたにきっと食ってかかりますよ

ドストエフスキーは、政府と完全に対立した経験があるわけで、思想犯として死刑にされそうになった。社会主義サークルに入っていただけなんですけど、そのために死刑にされそうになった。それで作中にはこういうことを書いていますよ。

リベラリストというやからは誰かが何か独自の信念を持っていると、それを大目に見ることができず、さっそく、自分の論敵に悪罵あくばをもって応酬し、あるいは何かもっと卑劣な手段で報いないでは済まさない
 
 
最近、日本の大逆事件を描いた物語を読んだんですけど、そこではロシアの革命のことがちょっと論じられている。
 
 
ドストエフスキーの死後20数年たったころに起きた1905年「血の日曜日事件」というのがあるんですけど、大逆事件当時の無政府主義者(日本人)はこの「皇帝崇拝幻想の打倒」を目指した運動に倣って、天皇制の廃止を目指していた。
 
 
どのような組織にも、危険な人が居るはずなんですけど、幸徳秋水のかつての仲間であった宮下太吉たちが暴走した、その責任を取らされたのが、幸徳秋水だったのかなあー、こういう時代にドストエフスキーの本は生々しくも強烈な迫力があったんだろう、と思いました。
 
 
ドストエフスキーはほんとうに死刑にされる寸前だった、ということを踏まえてイッポリットの発言を読むと衝撃的な描写だと思いました。

「あ、そうだ、さっき、あなたが、さようならっておっしゃったとき、ああ、ここにこんな人たちがいるが、みんなやがては亡くなってしまう、永久に亡くなってしまう! こんなことを僕は不意に考えたのです。それからこの木立ちもやはり同じことだ、——あとには煉瓦れんがの壁が……僕の窓のま向かいにある……マイエルの家の赤い壁ばかり、……さあ、あの連中にこんなことをすっかり言ってみろ……試しに言ってみろ。ほら、美人がいる……それなのに、おまえは死人じゃないか、死人だと言って自己紹介をしろ、『死人はなんでも言えるんだ』ってそう言ってみろ……

イッポリットは主人公を「世界じゅうの誰よりも最も憎んでる」のですけれども、ドストエフスキーはこの主人公を愛している。イッポリットの意見は、ドストエフスキーの暗い人格に結びついているところもある。作者と登場人物イッポリットは、そっくりなところもあれば、正反対な意識も持っている。その小説の独特な構造に惹かれました。
 
 

 
 
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