今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その26を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
主人公のムイシュキン公爵は……「ブルドフスキイに優しい友情と、莫大な金を提供」しようと考えた。そのため「誰一人として、公爵に嫌悪の念をいだいているものはありません」……と、周囲からはこのように思われたんです。ところが今回、これと正反対のことを言う男が、あらゆることを語り尽くします。大病を患っているイッポリットはこんなことを述べるのです。
公爵、僕は知ってますよ。あなたは、こっそりガーネチカの手からブルドフスキイのお母さんにお金を贈られたでしょう。ところで、僕は誓って言いますが、今度はブルドフスキイが、形式の繊細さがないとか、母親に対する尊敬がないとか言って、あなたにきっと食ってかかりますよ
ドストエフスキーは、政府と完全に対立した経験があるわけで、思想犯として死刑にされそうになった。社会主義サークルに入っていただけなんですけど、そのために死刑にされそうになった。それで作中にはこういうことを書いていますよ。
リベラリストという輩は誰かが何か独自の信念を持っていると、それを大目に見ることができず、さっそく、自分の論敵に悪罵をもって応酬し、あるいは何かもっと卑劣な手段で報いないでは済まさない
最近、日本の大逆事件を描いた物語を読んだんですけど、そこではロシアの革命のことがちょっと論じられている。
ドストエフスキーの死後20数年たったころに起きた1905年「血の日曜日事件」というのがあるんですけど、大逆事件当時の無政府主義者(日本人)はこの「皇帝崇拝幻想の打倒」を目指した運動に倣って、天皇制の廃止を目指していた。
どのような組織にも、危険な人が居るはずなんですけど、幸徳秋水のかつての仲間であった宮下太吉たちが暴走した、その責任を取らされたのが、幸徳秋水だったのかなあー、こういう時代にドストエフスキーの本は生々しくも強烈な迫力があったんだろう、と思いました。
ドストエフスキーはほんとうに死刑にされる寸前だった、ということを踏まえてイッポリットの発言を読むと衝撃的な描写だと思いました。
「あ、そうだ、さっき、あなたが、さようならっておっしゃったとき、ああ、ここにこんな人たちがいるが、みんなやがては亡くなってしまう、永久に亡くなってしまう! こんなことを僕は不意に考えたのです。それからこの木立ちもやはり同じことだ、——あとには煉瓦の壁が……僕の窓のま向かいにある……マイエルの家の赤い壁ばかり、……さあ、あの連中にこんなことをすっかり言ってみろ……試しに言ってみろ。ほら、美人がいる……それなのに、おまえは死人じゃないか、死人だと言って自己紹介をしろ、『死人はなんでも言えるんだ』ってそう言ってみろ……
イッポリットは主人公を「世界じゅうの誰よりも最も憎んでる」のですけれども、ドストエフスキーはこの主人公を愛している。イッポリットの意見は、ドストエフスキーの暗い人格に結びついているところもある。作者と登場人物イッポリットは、そっくりなところもあれば、正反対な意識も持っている。その小説の独特な構造に惹かれました。
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幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。
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