白痴(47) ドストエフスキー

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今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その47を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
白痴はあと3回の第50回で完結します。ここから先は完全にネタバレですので、未読の方はこちらから本文のみをお読みください。

 
今回、作中に出てくるゴシップ記事にムイシュキン公爵のことがデタラメに書かれている中で「ムイシュキン公爵は虚無主義である」という大ウソが書かれているんです。むしろ公爵は虚無主義の正反対ですよ。ドストエフスキーは虚無主義というのは否定的に考えていたかもしれない、と思いました。散々な事件から2週間たって、どうもナスターシャとムイシュキン公爵は結婚をするようである。本文こうです。
 

この二週間のあいだ、公爵が幾日も幾晩も、ナスターシャ・フィリッポヴナといっしょに時を過ごした
 
ナスターシャは、いろんなところが破綻しているので幸福にはならないのではないか……と思っていたんですが、どうもこの2週間は、彼女がもっとも望んでいた日々を送れたようです。作中にはこう書いていますよ。

彼女がよく公爵を散歩へ誘ったり、音楽を聞きに連れ出したりしたこと、また公爵は毎日彼女といっしょになって、あっちこっちを幌馬車で乗りまわして、たった一時間でも彼女の姿が見えないとなると、公爵はもうすぐに心配を始めるということ(したがって、すべての様子から推察して、公爵が彼女を心の底から愛していたことがわかる)

ただ、公爵は、同時にアグラーヤにも逢いに出かけていて、親から面会を拒絶され続けている。完了した人間関係、ということをどうも認識できないようです。アグラーヤと結婚したがっていたガーニャはもう、物語から外れてしまっているようで、アグラーヤと上手く話し合いが出来ないままで、もうこれ以上は出てこないのかなと思いました。あの心やさしいコーリャでさえ、公爵の2人の女性に対する態度について、不信感をつのらせている。さまざまな登場人物が、公爵と付きあうことを辞めて行っている。
 
 
公爵とはどういう人なのかというと、作中では「生まれつきの無経験と、ひとかたならぬ純情と、適度という感情の極端な欠乏」からさまざまな事件を引きおこした男、ということになっています。公爵とやや対立した立場の脇役を登場させて、主人公は一体どういう人間なのかを考察してゆく。とくに物語の始まりのところも再び読み解いてゆく。こんなふうに人物像と物語を掘り下げてゆくんだなあと、驚きながら読みすすめていました。主人公がスイスからペテルブルグにやって来た、この小説のいちばんはじめのところを別の視点から読み解いているんです。本文こうです。
 
ちょうど、到着の日に、あなたはさっそく悲しい胸をおどらすような話——はずかしめられた婦人の話を聞かされたのです。相手はあなたという童貞の騎士ナイト、話題は女のこと。その日のうちにあなたはその婦人に会って、その美貌に心を奪われました——幻想的な悪魔的な美に心を奪われました

ここから先の考察が面白かったです。ストーリーのおさらいと新たな眼差しの提示を同時に行って、最後の物語がどう展開しているのかを骨太に見せてゆくのが凄いもんだなあと思いました。

ねえ、公爵、問題はあなたの感情に真実があったか、真理があったかということです。それは単に、あなたの頭の中だけの歓びではなかったか、ということです。

ナスターシャのことについても、いかにも大衆の代表のような態度の脇役が、読み解いてゆきます。

はたしてあの女の行為が、あのお話にならない悪魔のように傲慢な態度や、あのずうずうしい、あの飽くことを知らないエゴイズムを弁護し得るでしょうか?(略)
単なる同情のために、あの女の満足のために、いま一方の高潔な令嬢を汚してもいいものでしょうか?(略)
真底から愛している令嬢を、競争者の前であんなにまではずかしめたうえに、恋がたきの見ているところでその女に鞍がえするなんて、いったい、できることでしょうか?
 
公爵はこういう批評を受けて、自分が悪かったのだと正直に認めるのでした。これで批判者エヴゲニイは憤激する。謝っておきながら改めずに強情なままだと怒るんです。世間的にいえば、公爵は2人の女性を誘惑したふとどきものということになる。それで真相はと言うと……じつは公爵はずっと、はじめから、あの美女ナスターシャの表情から……完全なる狂気というのを読み取っていて、彼女の表情と心を恐ろしいものだと思っていた。そうであるにもかかわらず、ナスターシャと結婚をすると約束をした。どうしてかというと、暴漢ロゴージンとナスターシャが結婚したらきわめて悲惨なことが起きることが明白だったからです。だからムイシュキン公爵はキリストの生き方のように、ナスターシャの抱える苦を受け止めていった。狂っている女を忌み嫌うのでは無く、彼は「僕は心の底からあの人を愛しています! だって、あれは……まるで子供ですものね。今は子供ですよ。まるで子供です!」というのです。
 
 
公爵は自分の周囲の状況ということについては、まったく頭が働かない。2人を同時に愛するのは不可能で、1人しか愛しようが無い、ということにまったく思い至らないんですよ。ここがやっぱり、育ち方を誤ったというか、そういう経験がまったくないから、分からないようなんです。
 
そうだ、僕が悪かったです!すべて僕が悪い、というのがいちばん確かです。はたして何が悪かったのか、それはまだわかりません
 
同時に2人の婚約者を愛するというのは不可能だ……という、これ以外の理由ってあるのでしょうか。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  
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