今日は横光利一の「微笑」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
これすごい作品なんです。戦後のGHQ支配下に、こういうものを書ききったのがすごい、という、戦争が終わってるのに、戦争のみを書いた作品です。あのー、水木しげる大先生も貸本漫画で、戦後に連合艦隊の激戦とかそういうのを書いていたそうです。当時は、そういうのがまだ大人気だったそうなんです。敗戦後しばらくはそういう感じだったそうです。
自分は敗戦後の数年間で小説家がどう変化したのかに興味があるんですけど、横光利一は、戦争が終わってから、戦争が終わってない、という小説を書いた。内容も支離滅裂な軍国主義者の、えぐいもので、なにかこう、ラブクラフトの暗黒神話とか、井伏鱒二の「黒い雨」に登場する、戦後の市営バスを戦車と勘違いして、ハリボテの爆弾で爆破しようとする、頭のおかしい青年のことを思いだしました。
この「微笑」は細部がこう興味深くて、自宅に表札をかけてもかけても、いくらクギでしっかり打ちつけても、ぜんぶ盗まれてしまうとか、そういえば物不足だった戦後には、学校のプールにある鉄フタを盗まれ続けたという事実があったそうですし、法律違反の闇市で食糧を買わなければ餓死した時代だそうですし……。作中に、右翼と左翼の争いのことがこう記されています。
母の実家が代代の勤皇家であるところへ、父が左翼で獄に入ったため、籍もろとも実家の方が栖方母子二人を奪い返してしまった
勤皇と左翼の争いは、日本の中心問題で、触れれば、忽ち物狂わしい渦巻に巻き襲われる
敗戦直後には、左翼が牢屋から出て来て自由になって日本共産党が再建したりして、左傾化しかけたようなところがあると思うんですけど、レッドパージのはじまるのが、この小説が出た3年後くらいなので、すごく時代を読んでるなあーと思いました。作中にも記されているのですが、横光利一はなぜか、戦後すぐに、排中律のことを中心的に書いているようなので、ありました。辞書では「排中律」のことを、こう説明しています。
はいちゅうりつ【排中律】 〔principle of excluded middle〕論理学の基本原理の一。「P∨-P」すなわち P であるか,または P でないかのいずれかであることを主張する論理法則。ある命題は真であるか偽であるかのいずれかであり,中間の可能性が排除されるところからこの名前がある。この論理は標準的な古典論理では成立するが,直観主義論理ではその一般的妥当性が否定される。伝統的論理学では,矛盾律・同一律とともに三大原理の一とされる。排中原理。排中法。(大辞林 三省堂)より
排中原理 (law of excluded middle)思考の法則の一。一般的には「AはBでも非Bでもないものではない」という形式をもち、Bと非Bとの間には中間の第三者はありえない、ということで、矛盾原理を補足するもの。未来事象に関する命題については真でも偽でもない第三の可能性を認めざるをえず、ここから記号論理学では多価論理学の特色として排中原理を認めない場合がある。排中律。不容間位律。(広辞苑 / 株式会社岩波書店)より
排中律の感覚は、日本の文化に相応しくないし、その対極にあるのはアルカイックスマイルとも言われる、日本の微笑なんだということを、横光利一が描いているように思いました。もし日本が戦中に、アメリカやソ連よりぜんぜん先に、原爆以上に破壊力のある中性子爆弾のような光線兵器を作ってしまっていたら、その作者である日本人はどうなっていたか、ということを小説にしています。現実に於いては、毒ガスの製造が戦中は大々的に行われていて、今でもその遺構が日本の島に残されているわけなんですが……。作中で主人公は、この新兵器について、見ないに越したことは無い、と危険な情報は得ないほうが得策だと、そう考えるんですよ。これはまさにそうだなあ、と思います。横光利一は、高性能すぎる兵器を作ってしまった者は、負ければ裁かれ、勝っても口封じで殺されてしまうだろうと、いう予想を立てます。結末は、史実と共鳴した内容なのですが、やはり驚きをもって読み終えました。
空襲で偶然にも生き残った少年の姿を描き出したかのような、雪崩を逃れた少年の話が、すごく良かったです。作中のこの文章が印象に残りました。
……
ふと、どうしてこんなとき人は空を見上げるものだろうか、と梶は思った。それは生理的に実に自然に空を見上げているのだった。円い、何もない、ふかぶかとした空を
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ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。
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