今日は夏目漱石の「草枕」その11を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
ローレンス・スターンの『トリストラム・シャンディ』という奇書……というか、美術的な仕掛けに満ちた作品について、主人公が論じています。
トリストラムのように、脱線をし続けるように、目的をまったく持たずに、自分は旅をするのだと、主人公は述べます。トリストラムに描かれた世界と、円覚寺で坊主とすれ違った記憶を、呼応させていておもしろかったです。
むかし、ジャン・アルプの作品群と、枯山水を比較したはなしを、別の作者の本で読んだことがあったんですが、まったく異なるところから生じた美の規則性について論じられていておもしろかったです。
木蓮の花を、主人公の画家が見ているんですけど、そのシーンがじつに鮮明な描写でした。原文はこうです。
…………花の色は無論純白ではない。いたずらに白いのは寒過ぎる。専らに白いのは、ことさらに人の眼を奪う巧みが見える。木蓮の色はそれではない。極度の白きをわざと避けて、あたたかみのある淡黄に、奥床しくも自らを卑下している。余は石甃の上に立って、このおとなしい花が累々とどこまでも空裏に蔓る様を見上げて、しばらく茫然としていた。眼に落つるのは花ばかりである。葉は一枚もない。
木蓮の花ばかりなる空を瞻る
と云う句を得た。どこやらで、鳩がやさしく鳴き合うている。
主人公はもう一度、和尚さんに逢いにいく。1905年(明治38年)ごろの物語なんですが、山の和尚さんは、もう二十年も都会に出ていない。それで、電車にちょっと乗ってみたいもんだという。主人公というか、漱石は、都市に存在する、集団的なストーカー気質のことを「探偵」といって腐しているんです。カフカで言うところの「城」のような、奇妙な存在として告げているんです。話し言葉が生き生きとしていて、百年前の出来事を、現代的な言葉づかいで読めるのは、百年前の世界を旅しているようで面白いと思いました。
山の和尚さんである観海寺の大徹は、旅をしつつ惑っているようなところがある主人公に、こういう助言をします。
「わしが小坊主のとき、先代がよう云われた。人間は日本橋の真中に臓腑をさらけ出して、恥ずかしくないようにしなければ修業を積んだとは云われんてな。あなたもそれまで修業をしたらよかろ。旅などはせんでも済むようになる」
「画工になり澄ませば、いつでもそうなれます」
「それじゃ画工になり澄したらよかろ」
しかしそれにしても、風景の描写がみごとで、漱石は画家そのものとなって、物語を描いています。それからあの、謎めいた女、志保田の那美のことが少し語られています。
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ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。
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