白痴(34) ドストエフスキー

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今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その34を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
前回から引き続き、イッポリットの独白が展開されます。イッポリットが親友コーリャのことについてこう語っています。

彼は、公爵の『キリスト教的忍従』を模倣しようと企てているように見える。この忍従なるものは、いささか滑稽なことであった。彼は若々しい熱のある少年であったから、もとより何事をも模倣しているのである。それにしても、もうそろそろ自分自身の頭脳によって生きるべき年ごろではないかと、私には時おりそういう気がするのであった。私はこの少年が大好きなのである。

模倣するのは若いからだ、という指摘はおもしろいと思いました。それからイッポリットは高価な紙入れを落とした男を追いかけて、届けてやったいきさつを語るのでした。その男は、もともと医者だったにもかかわらず、失職して転地したために地縁が途切れてしまい、まったくの一文無しになってしまった。それを偶然、病院と縁の深い病者イッポリットは、再就職のことでも助けることになった。イッポリットは元クラスメイトに働きかけて医療者を紹介して、ただパイプ役をしただけなんですけど、結果的にはかなりの効果があった。
 
この事件は実に思いがけなく、それ以上は望めないほど、調子よく運んだ。一か月半して、医者は別な県で再び職にありつき、旅費をもらい、補助金までも交付された。
 
イッポリットは気分よく、こんな講釈をするのでした。
 
「公共的慈善」の組織化と、個人の自由に関する問題とは、——二つの異なった、互いになしではすまされない問題なんだ。個人の善行は常に存在する。それは個性の要求だから。一つの個性が他の個性に、直接の影響を与えようという生きた要求だから。

けっきょく余命幾ばくもないイッポリットはなにか善行をして生きたい。以前、遺産をP氏の関係者に分配せよ、と言って、主人公のムイシュキン公爵を恫喝してしまってけっきょくは遺産を受け継ぐ権能がX氏に無かったことがガーニャによって明らかにされてイッポリットはそれを辞めたわけですけど、これもじつは善行のつもりだった……。
 
 
本文と関係無いですけど、日本の農地を公害から守りたいだけだったのに、原発反対と言っているとむしろ農業の風評被害が広がってしまっただけだった……というようななんだか善行のつもりが悪行をやってる、という入り組んだ状況というのは、昔からつねに存在してたんだろうなあと思いました。1回間違えてしまったイッポリットは、今こういうように言っています。

私の『最後の信念』はあまりにも厳粛に私の心のうちに食い入って、必ずや解決を得なければやまぬであろうとの結論に達する…………

そこに、ロゴージンがやって来た。イッポリットは、野心家の富豪ロゴージンと対面して、重大なことを話し合った。イッポリットが読み解いたロゴージンは、これまで見えてこなかった部分をカヴァーしていて興味深かったです。ロゴージンは自分の目的以外のことについては極めて静かにしている。一方で目的を達成するためにはあらゆる手を尽くす男なんです。イッポリットは行きがかり上、ロゴージンの邸宅を訪れた。

彼の家は私を驚かした。まるで墓場のようであった。どうやら彼はそれが気に入っているらしかった。もっとも、これはわかりきったことではあった。彼のいま営んでいる充実した、行動的な生活は、家の造作などを云々うんぬんしなくともよいほど、それ自身があまりにも充実しているからである。

それから、ドストエフスキーが繰り返し論じようとしている画家ホルンバインが描いた、死せるキリストの話しがまたも登場しました。キリストの死後、その遺体を取り囲んだ人たちの姿、その画布に描かれなかった人々のことを、ドストエフスキーが克明に綴っています。本文こうです。

このみまかれる人を取りまいていた人々は、必ずや自己のいっさいの希望、ないしはほとんど信仰ともいうべきものを、一挙にして打ち砕いてしまったこの夕暮れに、恐るべき苦悩と困惑とをことごとくその胸に感じていたことであろう。

しかしキリストは復活をした。イッポリットはこれに疑義をさしはさみたい。ロゴージンの幻影が現れてくるシーンに迫力がありすぎました。
 
 

 
 
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