未開の花 宮本百合子

今日は宮本百合子の「未開の花」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
宮本百合子が、女だけの独立した家族のことを描いているんですが、日本のジェンダー論のさきがけだ、と思いました。夫婦生活は不要だが、子どもを生み育てたいという意識をロマンロランやジードの文学を読み解きながら考えています。現実問題、貧しい状況のままで女一人の子育てはほとんど不可能なはずだが、という指摘があるのですが。本文に記されているのですが、誠意のない一つの嬌態としてではなく、男を頼りとせずに子を育てたい、という女性に向けて記された随筆です。
 
 
宮本百合子はこう記します。
 
 
 ロマン・ローランの描く女は、まざまざと感覚に迫る肉体をもっている。乱れたり、調えられたりする各々の息づかいと髪とをもっているのであるがジイドの作品の中で、女は余りはっきり体を見せず、多く内的過程によって描かれている。二つの作家は、二様の美と、卓抜を示しているのである。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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神曲 地獄(24) ダンテ

今日はダンテの「神曲 地獄篇」第二十四曲を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
今回は、盗賊がですね、毒蛇に襲われるという描写でした。これもどうもこう、なにかこう合法ではあっても人の創った物を盗んでばかり居る自分にはどうも身に覚えがあるような描写だと思いました。どうもダンテの神曲地獄篇を読んでいて、裁かれる側として読んでしまうんですが、他の人はどう読むんでしょうか。
 
 
ダンテはゲーテとはちがって、自然描写の少ない作家だと思うんですが。今回はかなり自然のことをがっちりと描いていました。干し草を求める農夫のちょっとした困窮と、太陽と霜の関係性と、太陽が冷気を追いはらってくれてそこに希望を見いだして、農夫は羊たちを放牧する仕事にかかる。ごく短い描写でしたが、地獄の中で思いおこされたこの農民の描写が美しかったです。山川訳はこうです。

 
貯藏(たくはへ)尽きしひとりの農夫、おきいでゝながむるに、野は悉く白ければ、その腰をうちて
我家にかへり、かなたこなたに呟くさまさながら幸なき人のせんすべしらぬごとくなれども、のち再びいづるにおよびて
世の顏束の間にかはれるを見、あらたに望みを呼び起してつゑをとり、小羊を追ひ牧場にむかふ 

 
今回、蛇の巣という恐ろしい現場で、不死鳥(フェニックス)のごとく不可思議な転生をくりかえす罪人たちが描かれていたんですよ。それはじつに奇妙な描写でした。古事記のような、非常に神話的な描写です。地獄の蛇に噛まれると、たちまち灰になって崩れ落ちるのですが、その灰がふたたびよりあつまって生きかえるという描写なんです。山川訳はこうです。
 
 
彼は忽ち火をうけて燃え、全く灰となりて倒るゝの外すべなかりき
彼かく頽(くづ)れて地にありしに、塵おのづからあつまりてたゞちにもとの身となれり
名高き聖等(ひじりたち)またかゝることあるをいへり、曰く、靈鳥(フエニーチエ)はその齡(よはひ)五百年に近づきて死し、後再び生る
この鳥世にあるや、草をも麥をも食まず、たゞ薫物の涙とアモモとを食む






 
 
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 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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狂言の神 太宰治

今日は太宰治の「狂言の神」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
このまえ読んだ現代小説で「一」と「ハジメ」という名前の独特な暗さをもった主人公が描かれていたんですが、おそらくこの太宰治が描いた「笠井一」が原典になっていると思いました。いや偶然一致しただけかもしれないんですが。ほぼ確実に太宰治の小説を想起して書いたんだと思います、たぶん。太宰はすごく有名な作家ですし。
 
 
その笠井一のもともとのモデルはだれかというと、作家本人だそうです。これは作中にもそう記されています。笠井一というのはじつは作者の太宰本人なんだと吐露するシーンがあります。
 
 
この作中で太宰治は、森鴎外のことを書いているのですが、森鴎外の小説を愛読し続けていた太宰は鴎外の墓を見て、「ここの墓所は清潔で、鴎外の文章の片影がある。私の汚い骨も、こんな小奇麗な墓所の片隅に埋められたら、死後の救いがあるかもしれない」と書き記しています。これを記憶していた親戚が、太宰の墓を鴎外のすぐそばにたてたそうです。
 
 
この小説は狂言のように見せかけて書いているのですが、調べてみると、じっさいに起きたことばかりを書いていました。新聞社に就職できなくて困っていたこと、それから昭和5年11月に太宰治は、田部シメ子という女性を過失によって亡くされていて、このことも作中に明記していました。二十七歳の作品とはとても思えなかったです。現代で言うと七十代の男性を描いた作品でこれに似た内容があったのですが。太宰はこの一二年後の戦後すぐの1948年に亡くなるのですが、どうも肺結核が悪化して喀血したのが主な理由なのではないかと自分は想像しました。同時期に織田作之助が肺結核で亡くなられています。
 
 
太宰は作中で、深田久弥という五歳ほど年下の山岳作家に逢いに行くんですが、これも実話です。私小説というか随筆のようになっています。太宰はまた、井伏鱒二を尊敬しているということを記しています。
 
 

 
 
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神曲 地獄(23) ダンテ

今日はダンテの「神曲 地獄篇」第二十三曲を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
鬼たちを憤慨させたダンテと師はいち早く危険な場を去ります。鬼たちには立ち入れない場というのが存在しているんです。第五の谷の鬼は、第六の谷には立ち入れないと言うんです。なんとも不思議だなと思いました。そういえば亡命中の政治犯について、他国は無闇に手出し出来ないという仕組みが現代にありますし、国境を越えたら世界がちがうということは、ダンテの神曲に限らずよくあります。
 
 
それで、第六の谷というのはこれは、偽善者たちが死後にゆく世界なのであります。見かけ上は目も眩むような金石でつつまれた外套を着ているのですが、うしろから見ると鉛のマントを身につけていて、永劫に苦しい重荷を背負って牛の歩みで生きているという描写でした。
 
 
「人民のうさを晴らすためには、一人くらい拷問にかけたほうが便宜的だ」という唆しをした男が、今度は地獄で磔にされ拷問にかけられている、という因果応報の描写がありましたがじつに怖ろしいです。ひどい拷問を描きつづけたダンテの魂は、じゃあ死後いったいどこに行ったんだろうかと思いました。
 
 

 
 
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蝙蝠の歴史 片山廣子

今日は片山廣子の「蝙蝠の歴史」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
片山廣子といえば「子供の言葉」という随筆が有名で、はっとするようなことが書いてあります。


今回のエッセーでは、コウモリに関する噂や伝承についての歴史を書いています。いわゆるホラ話の歴史なんですが。日本の昔話のような動物譚が、キリスト教に関連したものにもあるそうです。ぼくはどうも知らなかったのですが、動物の体がこうこうこうなっているのは、その先祖がかつてこういうことをしたからですという、典型的な因果応報のことが書かれていて、これは日本の古い昔話だけでは無いんですね。知らなかったです。片山廣子はこれを「古いゲエルの伝説」と書いているので、これはケルト神話のことだと思うんですが、調べてみても原典は、ぼくには発見できませんでした。古いホラ話ですが、興味深い内容でした。
 
 
コウモリは、闇と夜を代表する生きものとして、中世キリスト教美術ではよくコウモリの羽を持つ悪魔が描かれています。魔女はコウモリのすがたをしているという俗信は、ダンテが神曲で描いた、コウモリの翼をもつ魔王サタン(ルシファー)の描写によって一般的な空想として定着した、そうです。世界大百科事典にそう記されていました。
 
 
もっとも苦しまれている人の目の前で、「ぼくの体はなんと美しいんだろう」と言いながら優雅に飛びまわっていたコウモリは、いまわのきわのキリストにほんのかすかに見つめられた。その一瞬のまなざしによって彼は美しい色彩を失って、その後は闇の中で生きることとなった……。コウモリはキリストを裏切ったユダの生まれ変わりであるそうです。
 
 

 
 
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神曲 地獄(22) ダンテ

今日はダンテの「神曲 地獄篇」第二十二曲を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
罪人を裁きつづける鬼たち十匹が、ダンテと師のすぐ側で地獄の活動を繰りひろげているのですが、ここに非常にウソの上手いナヴァーラの男が登場し、鬼たちを混乱させます。
 
 
男はありえないウソをつぎつぎに言って、鬼たちの混乱に乗じて拷問の場から脱出します。この過失を問われた鬼たち二人が仲間割れをはじめ、煮えたぎる海に飛びこんで燃え尽きてしまいます。
 
 

 
 
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食糧騒動について 与謝野晶子

今日は与謝野晶子の「食糧騒動について」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
与謝野晶子と言えば源氏物語の現代語訳や「みだれ髪」などが有名ですが、随筆も良いんですよ。wikipediaに載っていますが、1918年の大正7年8月にシベリア出兵があって、それから米騒動があるんですが、このことについてリアルタイムで与謝野晶子が批判しています。与謝野晶子は体験というのを重大視していて、机上の空論よりも自分が直面した問題から考え方を作りあげてゆくことを薦めるということを他の随筆で書いています。十五年戦争がはじまる手前の状況がどういうものだったのかが見えてくる内容でした。
 
 
戦争以外のところで、ものすごい困難があったんだと言うことが与謝野晶子によって明らかにされています。追いつめられた個人個人の、生きのこるための悪行については弁護せざるをえないが、生存を忘れた騒乱についてはいっさい認められず、赤面して恐懼するよりほかない、ということを述べています。
 
 
与謝野晶子は、教育の不行き届きをなげく教育者の考え方を否定します。むしろ国家がおしすすめた教育というものが、ひどい騒乱を生んだと記しています。原発問題や二十万人を超えた難民問題、社会保障が主要国の3分の1程度である現状においての被災保証の打ち切り、TPP参加による日本農業の危機などについて考えながら読んでいました。与謝野晶子は現代とは異なるかつての危機を、こう記します。
 
 
  ……これに備えて禍を未然に防ぐだけの時日は十分にあったのです。……(略)……決して今年に入って以来の現象ではなく、二年以前において既に何人にも目に余る事実であったのですが、政府当局者は常に楽観的大言を放って、在野の識者の忠告に耳をかさず……
 
 
与謝野晶子は恒常的な社会保障の枠組づくりと言うことを視野に入れて安定した社会の実現策を説いています。それから財産を持つ者たちによるセーフティーネット体制と言うことを説いています。
 
 
戦後日本の民主主義社会や、現代のオーストラリア・イギリス・フランスなどが実現している社会保障制度というところにまで、百年前の文筆家の視野が届いているというところがすごいです。
 
 

 
 
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