

今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その31を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
アグラーヤは偶然にも、ふたたび公爵に出逢います。そこで、作家プーシキンの決闘について語りあったりします。
銃に関する話が妙に面白いんです。ドストエフスキーは娯楽小説を書いても凄いだろうなと思いました。アグラーヤは銃撃のやり方にみょうに関心があるんです。技術的なことには詳しいのに、銃撃がなにを引きおこすかについてはほとんどまったく考えていない。
破天荒な物語を、今ここで読んでるわけなんですけど、これは完全な空想話では無くって、じっさいにプーシキンやドストエフスキーは派手でドラマチックな人生を歩んでいて、その結果が物語に投影されている。
ナスターシャの起こした事件を振り返りつつ、アグラーヤの暴れぶりについて話し合われるんですけど、主人公ムイシュキンとしては、もはやナスターシャは理解のおよばぬ危機的な人間として認識されている。もはや彼女について語ることが出来ない。いっぽうでアグラーヤには理解できる人間性がある。語ることの出来なくなった事物の、代わりのものというのが、ドストエフスキーの文学では特徴的に出現するように思えました。ドストエフスキーが語ることが出来ない、じつの父殺しの問題や、検閲と死刑の過酷な国家に対する、それらの記すことの不可能な言葉の代わりこそが、ドストエフスキー文学なんだと思えました。アグラーヤに対する父の思いが記された記述は、こうです。
でも、僕は、ねえ、君、あの子が可愛い、笑うのがかえって可愛いくらいだ。そして、どうもあの子は、鬼の子はそのために僕を特に好いてるような気がする。つまり、ほかの誰よりも好いてるらしい。これは賭をしてもいいくらいなんだが、あの子はもう何かのことで君のことを嘲弄したに相違ない。
アグラーヤは、主人公を秘密のベンチにいざないます。そこで……再び奇妙な話しをするのでした。主人公はこう考えています。
アグラーヤが一同の者、わけても彼、公爵をばかにしているということは、彼も全く信じて疑わなかった。しかも、いささかの屈辱をも彼は感じなかった。彼のつもりではむしろそうあるべきはずのものであった。明日の朝早く、また彼女に会えるということ、緑色のベンチに彼女と並んで腰をかけ、ピストルの装填法を聞かしてもらって、彼女の顔をしみじみと見ることができるという、ただそれだけのことが、彼にとっての最も重大なこととなっていた。
ナスターシャはじつは、アグラーヤと主人公ムイシュキンを結婚させようと思って、そのための邪魔になるエヴゲニイを追い出そうとして狂態を演じた、らしいんです。それはどうもほんとにそういうことらしい。
今回の章で、とつぜん暴漢ロゴージンとムイシュキン公爵が出逢うんですけど、それ以前に出逢ったのは、公爵が持病で倒れる寸前に、彼を襲おうと待ちかまえていたロゴージンだったんですけど、それがなんというか、事態や感情と齟齬を来していて、違和感があります。作者もこのシーンをどう描いたらいいのか戸惑っている感じがしました。公爵の言い分はこうでした。
実は君は僕の命をとろうとした、だから、それがため君の恨みが残っているんだ。はっきり言うけど、僕はただ一人の、あの日、十字架をやり取りした、あのパルフェン・ロゴージンを覚えているだけだ。…………(略)…………ようく言っておくけど、あの時のことは何もかも、ただ、いやなたわごとだと僕は思うんだ。
「十字架の兄弟ロゴージンを覚えていて、刀を振り上げたロゴージンを覚えていないと、こう手紙には書いてあった」とロゴージンは述べるんです。非常にむずかしいシーンのように思いました。ロゴージンとムイシュキン公爵は、ナスターシャについて再び話し合う。
ナスターシャは自己を犠牲にして、幸福や資産を譲りたいという思いがあるようです。それを理解した上で、公爵はナスターシャが既に正気を失っていると判断しているんです。ナスターシャの行動は結果的に幸福をもたらさないように思えるのですが……ロゴージンと結婚をしようというナスターシャはもしかすると、女の姿をしたキリストとして描かれているのではないのか、というような空想をしました。そうじゃない証拠は、作中に山ほど見つかるんですけれども。

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ゲーテは詩心についてこう記します。
わたしがどんなに迷ひ、どんなに努めたか
どんなに悩み、どんなに生きたかは
ここなる花輪の花となる
さうして老境もまた青春も
徳も不徳も集めて見れば
また捨てがたい歌となる
装画をクリックするか、ここから全文を読んでください。 (使い方はこちら) (無料オーディオブックの解説)
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約10秒)
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