白痴(40) ドストエフスキー

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今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その40を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 

ドストエフスキーは、人物の書き分けが明瞭なのにもかかわらず、作中で人物同士の対立と和解が繰り返し起きていて、心情が二転三転するところが、読んでいて引き込まれます。
 
  
ガーニャと療養中のイッポリットは、前回はげしい諍いをしたのに、和解の態度を示している。病者を見舞って、療養のために家を貸すという提案もした。イッポリットはどうも、死なずに済んだようである。
 
 
ドストエフスキーの登場人物は、悪態をつきまくるんですけど、それがなんだか、喧嘩するほど仲が良い、という感じで展開する。将軍は、イッポリットに妙な具合にぶつかっている。その悪口の言い方が変な調子なんです「この男はまるでネジクギだ!」とか言うんです。本文こうです。

そうだ、螺旋釘ねじくぎだ!わしは何の気なしに言ったんじゃが、これは——螺旋釘じゃ!なぜというて、こいつはわしの胸を螺旋釘でえぐるんじゃから、それに全く相手の見さかいもなしに……螺旋釘のように……
 
「こいつは螺旋釘だ!」と将軍は叫んだ、「こいつはわしの心や魂を、螺旋釘でえぐるんじゃ!こいつはわしに無神論を信じさせたくてしようがないんじゃ!やい、青二才!貴様なんぞが、生まれてもいない前に、わしはもう背負いきれぬほどの名誉をになっていたんだ。貴様は二つにぶっ切られた嫉妬やきもちの虫だ、……


将軍には周囲に居る人がぜんぶ敵に見える。実の息子とも対立している。ガーニャはついに怒りだした。原因は、将軍のはげしい虚言癖にあった。将軍は自分を良く見せかけようと、存在しない部下の話しをしつづけたんですが、そんな人はこの世に居ないでしょうと、イッポリットは事実に基づいて諌めたんですよ。そうしたらウソがバレたことが腹立たしくて、将軍はしきりに怒りはじめてしまった。本文こうです。

取るにも足らない侮辱が、彼をして憤激の極に達せしめる機縁とならなければならないようなことになったのである。
 
それで将軍は家を出ていった。じつは病者イッポリットは、将軍のことを頭がおかしくなったとは思っておらず、こう発言しています。

あの人は用心深く、疑い深くなってきて、何から何まで探りを入れて、実にことばをつつしんでいますよ……。

イッポリットの病状が回復してきて、あの恐ろしい悪夢も、彼の中からだいぶ消え去っていて、知的な人間に戻っている、その発言と描写がすてきでした。
 
 
彼はすでに新しい療養場所を見つけたので、ガーニャやワーリヤがいるところから出てゆく。対立していたガーニャと最後の会話を繰り広げる。本文と関係無いですけど、ぼくは立つ鳥跡を濁さず、という生き方をしたいんですけど、たいてい濁して逃げる感じになってしまう。
 
 
イッポリットはちゃんと人々と別れて新天地へ行きたい。最後の会話って、なんだか、そうか、うーむ、そういうのは誰でもあるわけで、ガーニャは悪いことばかり考えてる奴なんですけど、なんだか親近感がわくなあと思いました。前回、ガーニャとイッポリットでこういう対立があったんです。イッポリットの発言はこうです。
 
(※イッポリット)のほうから、できるだけ簡単に。僕は今日は、二度か三度、やっかい者だというおとがめを受けましたが、それは不公平ですよ。あなた(※ガーニャ)こそ、僕をここへび寄せて、僕を係蹄わなにかけたじゃありませんか。そして、僕が公爵に恨みを晴らそうとでもしているようにお考えになったのです。(※カッコ内は注釈)
 
イッポリットはガーニャに対して「あなたに良心を思いおこさせておいて、別れて行くということと、それに、僕たちが、今お互いに実によく理解し合っているということだけで十分なんです」と宣言する。ところが病床を用意してあげたガーニャの妹ワーリヤは怒りはじめる。イッポリットはこう、立場のことがどうもわかってない。困ってるところをちゃんと世話してくれた人々にたいして「大目に見てあげる」とか言うんですよ。上下関係の概念がないのか、と思って笑いました。イッポリットは異様な若者なんです。本文こうです。
 
僕はね、一生涯、僕をいじめ通して、こっちでもまた一生涯、憎んでいたあの無数の連中の代表者を、せめて一人だけでも愚弄ぐろうしてやって、もっともっと落ち着いて、天国へ行きたいと、こう思いましたよ。

愚弄をしない人だけが、天国に行けるんじゃないのかなとか、そういうことはイッポリットは考えない。ガーニャだけは愚弄してやろうと、そう考えている。
 
 
「あなたは傲慢な凡庸性そのものです。自己を疑うことのない、泰然自若たる凡庸性そのものです。あなたは月並み中の月並みです!」って彼の妹が居る前で言うんです。ムチャクチャなんです。もうすぐ死ぬっていうと美談にしますよねえ、普通は。ドストエフスキーは牢獄にいる連続殺人犯の最後を見ていて……こういう美化しない人間を書くようになっていったんだろうなあとか、空想しました。
 
 
一方で恩を仇で返されたかたちのガーニャとワーリヤなんですけど、べつの幸福の可能性が転がり込んできたことについて話しはじめた。美女アグラーヤから、ある謎めいたお願いごとをされた。その内容はまだ判らない。次回に続きます。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  
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