彼岸過迄(7)報告(後編)夏目漱石

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今日は夏目漱石の「彼岸過迄ひがんすぎまで(7)報告(後編)」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
米国のハードボイルド小説に登場する探偵のような中年男を、漱石は描きだしたいんではなかろうかと思いました。いや、漱石は一貫して暇と時間が多分にある男を描こうとしているわけで、探偵とはほとんど逆側にいる男を描いてきたんですけど、どうも今回の登場人物は硬派なんです。本文こうです。
 
 
  ただ一つ敬太郎の耳に新らしく響いたのは、露西亜ロシヤの文学者のゴーリキとかいう人が、自分の主張する社会主義とかを実行する上に、資金の必要を感じて、それを調達ちょうたつのため細君同伴で亜米利加アメリカへ渡った時の話であった。その時ゴーリキは大変な人気を一身に集めて、招待やら驩迎かんげいやらに忙殺ぼうさつされるほどの景気のうちに、自分の目的を苦もなく着々と進行させつつあった。ところが彼の本国かられて来た細君というのが、本当の細君でなくて単に彼の情婦に過ぎないという事実がどこからか曝露ばくろした。すると今まで狂熱に達していた彼の名声が、たちまちどさりと落ちて、広い新大陸に誰一人として彼と握手するものが無くなってしまったので、ゴーリキはやむを得ずそのまま亜米利加を去った。というのが筋であった。
  
 
漱石は、英文学とドストエフスキーから深い影響を受けた作家だと思うんですけど、アメリカも描いてみたかったんで、なかろうかと思いました。
 
 
主人公敬太郎は、わざわざ、自分が田口に雇われて、ちょっと前までスパイの仕事をしていて、なんの因果でやって来たのかを、ぜんぶ漏らさず、正直に話してしまう。じゃあウソの報告でもすると良いと言って、田口が高級娼婦と不倫していたと報告してくれと頼まれる。松本は田口の義弟で、じつは主人公の友人とも関係がある、という奇妙な事実を知る。
 
 
敬太郎は単に、親戚同士で仲良く食事をしたところを、尾行しただけだったんで、ありました。探偵の仕事をもらったと思っていたら、たんにイタズラの片棒を担がされたというか、イタズラされただけだったんです。仕事だと思ったのに、仕事じゃなかった。けれども、どうもやっぱりダマして終わりじゃなくて、べつの仕事は用立ててくれるらしいんです。ここらへんが江戸っ子というかなんというか。
 
 
こういうのを、アンチクライマックスと言うんだろうと思って、wikiでこの技法を調べていたら、修辞技法って30種類くらいあるんですね。関係無いんですけどビックリしました。
 
 
ひょうひょうとした小説で、ほかの伝統的文学と比べるとずいぶん剽軽な人物像を描きだしている。これが漱石のそもそもの原点なんでなかろうかと思いました。漱石は柳家小さんの「うどんや」という落語を好んでいたらしいんです。正岡子規と漱石が、若いころに一緒に見てた寄席の、その内容を調べてみたいと思いました。この文章が印象にのこりました。
 
 
  ……君だからそう思うんじゃない、誰を見てもそう思うんだから仕方がないさ。ああして長い間人を使ってるうちには、だいぶだまされなくっちゃならないからね。たまに自然そのままの美くしい人間が自分の前に現われて来ても、やっぱり気が許せないんです。それがああ云う人の因果いんがだと思えばそれで好いじゃないか。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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