今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その9を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
ヒロインのナスターシャと、不気味なガーニャは、結婚をするかもしれない男女であるはずなんです。結婚をするはずの男女が、ひさしぶりに逢うわけなんですけれども。恋人とか婚約者というのから極端に遠い関係性なんです。ありえない対面になっている。ガーニャの性格はこうです。
ガーニャは猜疑心が強くなって憂鬱症に陥るほど自尊心と虚栄心が強かった
ガーニャはナスターシャとあわよくば結婚したいという思いもあって彼女と親密になりたい……はずなんです。本文こうです。
…………しかし今度もナスターシャはもう聞いてはいないのであった。彼女はじっとガーニャを見ていたが、やがて笑いながら大きな声で言いだした。
「あなたの顔はどうしたんです? ああ、私が来たっていうのになんて顔をなさるんです!」
しばらくこの笑いが続いた。すると実際ガーニャの顔が非常に醜くなってきた。棒のように、固くなった態度や、おずおずしてうろたえた滑稽な表情が急に消えて、顔はものすごいまでに青ざめてきた。
「あなたの顔はどうしたんです? ああ、私が来たっていうのになんて顔をなさるんです!」
しばらくこの笑いが続いた。すると実際ガーニャの顔が非常に醜くなってきた。棒のように、固くなった態度や、おずおずしてうろたえた滑稽な表情が急に消えて、顔はものすごいまでに青ざめてきた。
ナスターシャとガーニャは結婚する可能性が、まあまああった。あったにもかかわらず、お互いがお互いを信用していない。本文こうです。
ナスターシャ・フィリッポヴナが『ガーニャや彼の家族のものを嘲弄してやろうと機会をねらっている』
と、しかもガーニャはそのように「確信していた」というんです。仕事でだったら、まあお互いに疑いながら業務が成立することだってあると思うんですけど、結婚でこんなことは……無いと思うんです。けれども結婚する可能性を捨てきれないというガーニャの性格が恐ろしい。こういうひどい人間関係の真ん中に、主人公のムイシュキン公爵が割り込んで、入って行ってしまう。とうぜん逆恨みされる。
彼は公爵の肩を引っつかんで、無言のまま、さも憎々しげに恨めしそうな眼つきで、口をきくことができないかのように、じっとにらみつけていた。
このあと、客人を目の前にして醜態を演じてしまった二人の男女は、急に笑い始めてしまう。この緊張と緩和、恐怖と笑いのリズムが今回の物語の魅力のひとつになっているんです。
エパンチン将軍というのがまったく意味不明で、とにかく虚言を言う。じつの息子からも、これはフィアンセに逢わせてはならないと警戒されるくらい、虚言につつまれているんです。
ぼくはムイシュキン公爵が好きで、というか多くの登場人物がムイシュキンの無垢で素直でトンチンカンな性格に惹かれているわけなんですけど、その公爵の愚と、エパンチン将軍の意味不明さはだいぶちがうんです。どう違うのか、ちょっとわかりにくい。考えてみたんですけど、将軍のおかしさは、エラーとかバグに近いものがある。いっぽうでムイシュキン公爵のおかしさは、エラーやバグというものと、まるで違うんですよ。それがどのように人々を惹きつけるのかが、謎なんです。とにかく公爵の行動と発言がおもしろい。将軍は、暴力的な笑いをもたらすんです。将軍が恐怖と笑いをつかさどっているのに対して、公爵は緊張と笑いのリズムがあるように思いました。
初対面で公爵にとんでもない対応をしてしまったヒロインナスターシャとムイシュキンは、いくつか話しをしているうちに勘違いが解消されて、打ち解けてくる。
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ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。
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