

今日は夏目漱石の「彼岸過迄(9)雨の降る日(後編)」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
今回の宵子の弔いの描写は、とりわけ静謐な筆致なんです。これが、後期漱石作品の重大な特徴なのではないかと思いました。自分のせいで不幸が起きてしまったと思っている千代子に対して、いろんな家族が、静かに接してくれる。不安や怒りを、漱石が鎮めるように描きだしているんです。
漱石の後期作品は前期とはまたちがう迫力があるなあ……と思いながら読みました。描写が微細なんです。小さい編み笠や藁草履や、赤い毛糸の足袋が、静かに描きだされる。とくに咲子という少女が、抑制のきいた幼子らしい態度でいるのがものすごいリアルでした。ほんの少しだけ登場する子供の描写が、えげつないほど見事に書かれています。嘉吉という幼子の行動とか、ほんの数行なんですけど、そこにほんとうに居る感じがすごい出てるんです。これが文学か! とか思いました。明治時代であっても、葬儀は現代とそれほど変わらない。自分のじっさいの記憶と混じりあってゆくのが時代を超える文学なんだなあと思いました。漱石は記憶の内部に入りこんでゆく、希有な作家のように思います。
この会話が印象に残りました。
…………
「市さん、あなた本当に悪らしい方ね。持ってるなら早く出して上げればいいのに。叔母さんは宵子さんの事で、頭がぼんやりしているから忘れるんじゃありませんか」
須永はただ微笑して立っていた。
「あなたのような不人情な人はこんな時にはいっそ来ない方がいいわ。宵子さんが死んだって、涙一つ零すじゃなし」
「不人情なんじゃない。まだ子供を持った事がないから、親子の情愛がよく解らないんだよ」
「まあ。よく叔母さんの前でそんな呑気な事が云えるのね。じゃあたしなんかどうしたの。いつ子供持った覚があって」
「あるかどうか僕は知らない。けれども千代ちゃんは女だから、おおかた男より美くしい心を持ってるんだろう」
もっと良い描写がいっぱいあるんですけど。つづきは本文をご覧ください。
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(約50頁 / ロード時間約30秒)
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ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
ゲーテは詩心についてこう記します。
わたしがどんなに迷ひ、どんなに努めたか
どんなに悩み、どんなに生きたかは
ここなる花輪の花となる
さうして老境もまた青春も
徳も不徳も集めて見れば
また捨てがたい歌となる
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約10秒)
『ゲーテ詩集』全文を読むにはこちらをクリックしてください
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