今日は夏目漱石の「彼岸過迄(8)雨の降る日(前編)」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
田口はデタラメなことをしたようでいて、ちゃんと敬太郎に仕事を用意してくれた。敬太郎は、先達の家に出入りしているうちに、このまえ逢った千代子とだんだん親しくなってゆく。
漱石はある固定的な物語の型をつくってから、後半にゆくにしたがってだんだん均して読みやすくしてゆく文体が多いと思うんですけど、「草枕」の、美文から物語文へとじっくり変化してゆく文体が秀麗だと思うんです。今回も後半に向かうにしたがって、独特な文体の型を溶かしていって、物語の進行のほうに意識を集中してゆく展開になっています。絵画にヌケがあるように、漱石の小説にもすらすら読める箇所があって、今回の「雨の降る日」が緩い描写になっています。
ここまで主人公敬太郎の視界から見えたものを中心に、話しが展開してきてカメラはずっと敬太郎に密着していたんですけど、今回から急に、カメラが千代子の世界を追いはじめる。この場面切り替えが乙なんです。前回は中国へ移住していった友人の「洋杖」を中心にして、物語がガラッと入れかわったんですが、今回は「雨の日は逢わない」という奇妙なルールを中心にして、時間軸と登場人物が入れかわってます。
そこで芭蕉という植物が雨に打たれるときの音が話題になります。wikiによれば、松尾芭蕉の芭蕉は、この植物から由来しているそうです。はあ、そうだったんだと思いました。主人公がいったん消えてしまって、千代子と幼子の宵子の朗らかな暮らしが描きだされます。漱石の女性の描写は、繊細で美しいんです。小津安二郎の映画みたいなんですが、そこから急に不幸が描写されます。はっと息をのむ展開なんです。
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(約50頁 / ロード時間約30秒)
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ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。
(総ページ数/約10頁 ロード時間/約10秒)
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