彼岸過迄(11)須永の話(後編)夏目漱石

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今日は夏目漱石の「彼岸過迄ひがんすぎまで(11)須永の話(後編)」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
  僕が大学の三年から四年に移る夏休みの出来事であった。
 
  母はふところから千代子の手紙を出して見せた。それには千代子と百代子の連名で、母と僕にいっしょに来るようにと、彼らの女親の命令を伝えるごとく書いてあった。
 
 
と、いうように須永の過去の物語が語られてゆきます。親戚のよく知っている者どうしで連泊の旅行をする。そこで高木という家族を知る。明治時代なのに、高木の兄はアメリカに行っているそうで、裕福で行動的な家庭らしい。須永は、知らない人に会うのが苦手だから、みんなを残して旅の途中で帰るとか言いはじめた。この態度に、いとこの千代子は「変人!」と言って怒ってしまった。本文こうです。
 
 
  彼女は僕をつらまえて変人だと云った。母を一人残してすぐ帰る法はないと云った。帰ると云っても帰さないと云った。
 
 
須永は、いとこの千代子のことを「小さな暴君タイラント」とひそかに呼んで、タイフーンみたいな女だと思って、年下なのに尊敬している。それでやむをえず、彼女たちについてゆくことになった。「要するに僕は千代子の捕虜になったのである。」と本文には記されています。
 
 
高木は性格も容姿も好青年だった。ひがみっぽくて変な性格をしている僕(須永)の性分にあわない。漱石は、家族や親戚の明るくむつましいところを描くんです。
 
 
親戚みんなで船釣りに行く。高木はとにかく明るくて礼儀正しくて、好青年すぎるので、「僕」はどうしても彼から逃げたい。漱石は、家族や親戚から独立してゆく青年を、さまざまに描きだしていったと思うんですが、今回の高木は、その良き親類の象徴みたいなところがあるんじゃないかと思いました。
 
 
須永の性格がなかなかひねくれてて、良いんですよ。世に出たがらない男とか、欲しがらない男とか、こういう人物像を読んでゆくのが楽しいんだと思いました。須永の恋愛観がなんともすごいんです。本文こうです。
 
 
  僕には自分になびかない女を無理にく喜こびよりは、相手の恋を自由の野に放ってやった時の男らしい気分で、わが失恋の瘡痕きずあとさみしく見つめている方が、どのくらい良心に対して満足が多いか分らないのである。
 
 
漱石は《嫉妬心しっとしんだけあって競争心をたない僕にも相応の己惚うぬぼれは陰気な暗い胸のどこかで時々ちらちら陽炎かげろったのである。》と書くんです。漱石は、みごとになにかを言い当てているような気がするんです。これはなんだか、現代的な人物像だなと思いました。「僕」は勝とうという意志がまったく無い。千代子と結ばれようというように考えない。じゃあどういうように生きるのかというと、漱石はこう書きます。《僕は始終詩を求めてもがいているのである。》
 
 
作中、こんな場面があるんです。
 
 
  「……僕が何か千代ちゃんに対してすまない事でもしたのなら遠慮なく話して貰おう」
「じゃ卑怯の意味を話して上げます」と云って千代子は泣き出した。
 
 
こういう場面もあります。
 
 
  「…………なぜ愛してもいず、細君にもしようと思っていないあたしに対して……」
彼女はここへ来て急に口籠くちごもった。不敏な僕はその後へ何が出て来るのか、まださとれなかった。「御前に対して」となかば彼女をうながすように問をかけた。彼女は突然物をき破った風に、「なぜ嫉妬しっとなさるんです」と云い切って、前よりははげしく泣き出した。
 
 
読んでいてやっぱりこう、須永はほとんど許嫁みたいに深い仲であった千代子に、結婚を申し込めばいいじゃないか! ぐずぐずしすぎたのだ! 言い訳がひどい、たしかに千代子の言うとおり「卑怯」なところがあるなあーと、思いました。どうも振られるのがすごく怖いようです……。
 

千代子に良い未来をもたらしそうな好青年の高木に対して、僕(須永)は嫉妬していて卑屈になっている。それに対しての千代子の批判がこうです。
 
 
  ……高木さんは紳士だからあなたをれる雅量がいくらでもあるのに、あなたは高木さんを容れる事がけっしてできない。卑怯だからです」
 
 
この投げっぱなしジャーマンのような、須永の物語の終わり方に、痺れました。あと2回で完結です。
 
 

 
 
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 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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