白痴(5) ドストエフスキー

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今日はフョードル・ドストエフスキーの「白痴」その5を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
遠い国からやって来た単身者のムイシュキン公爵を、将軍一家は温かく迎え入れる。それだけこの主人公ムイシュキンが、礼儀正しく教養があって、性格は子供のようで「哀れむべき」無害さを持った男だったからなんですが……。
 
 
将軍夫人は公爵に食事をだしてやって、公爵といろいろ話すんです。3人娘と夫人は好きなように公爵のことを解釈する。娘のアレクサンドラはこんなふうにつぶやいたりする。「この公爵はひょっとすると大の悪党だわ、けっして白痴なんかじゃなくって」……いっぽうで主人公ムイシュキン公爵はこんなふうに自己分析する。
 

僕はいつも、病気がひどくなって、発作が何度も続くと、すっかりぼんやりしてしまって、すっかり記憶力がなくなり、頭は働いているのですが、思想の論理的な秩序がとぎれてしまうのでした。

発作が起きないかぎりは、公爵は聡明で論理的なことを考えられる。そういえば今までの発言も、突如異様なことを言うことがあるんですけど、普段は、いたって普通なんです。それからずいぶん詩的なことを言ったりする。

町の市場にいた驢馬ろばの声が僕の眼をさましたのです。この驢馬がひどく私を驚かして、なぜかしら非常に僕の気に入ったのです。それと同時に、急に僕の頭の中は、雲がはれたようになりました

この驢馬がいたために急にスイス全体が好きになって、以前の憂鬱ゆううつな気持はすっかり消し飛んでしまいました
 
 
「公爵は非常に賢いかた」なんですけれども同時に「白痴」とか「変人」とかいうふうに思われている。公爵は美しい風景をまのあたりにしながら感じる「不安」について語るのでした。
 
岩の上には中世紀の古いお城がくずれていて、はるか下のほうには僕のいる村がかすかに見え、太陽は明るく、空は青く、あたりは恐ろしいほどひっそりしている。そんな時にも非常に不安になるのでした。実にそんなところへ行っていると、どこかへ行きたくなって、もしもまっすぐに、どんどん、どんどん歩いて行って、あの空と地が一つになっている線の向こうまで行ったら、謎はすっかり解けてしまって、ここにいるよりは何千倍も力強く、にぎやかな、新しい生活が生まれてくるのだと、いつもそんな気がしていました。
 
 
日本にも「ナポリを見てから死ね」という奇妙なことばが伝わっていますが、ドストエフスキーもスイスの風景と同時に、イタリアのナポリの活気のある町並みについて今回ちょっとだけ書いています。公爵はナポリのことを考えながら「監獄の中ででも、立派な生活は見いだせるものだ」という思いを抱くようになった。
 
 
そういえば、ドストエフスキーは現実に監獄に入っていて、そこで、いろんなことを考えていたわけですよねえ。うーむ……。読み方としては正しくないのかもしれないんですが、ドストエフスキーの現実の生き方と、物語がどう繋がっているのか、もっとちゃんと学んでみたいなあと思いました。こんかいドストエフスキーは監獄という言葉を18回、驢馬という冗談を21回使ってます。主人公は、死刑に処される寸前の囚人について、さかんに語るんです。

あと五分ばかりのことで、それから先がないという時になりました。その男の話では、この五分間が果てもなく長い時間で、莫大な財産のように思えたそうです。またこの五分間に、最後の瞬間のことなど未練がましく思うがものもないような豊かな生活をすることができるような気がして、いろんな処置をとったそうです。まず時間を割りつけて、二分間ほど友だちとの告別に、さらに二分間をこれを最後に自分のことを考えるために、あとの残りはこれをこの世の見おさめに、あたりを眺めることにしました。

この小説が時代の流れと共に消え去らなかった原因のひとつには、白痴というのが他人のことではなくて、作家自身が監獄の中で陥った、自らの思いを描いているからなんだなと思いました。ドストエフスキーは自らの体験のことを白痴の心情として言いあらわしている。絵を嗜んでいる将軍姉妹にたいして「白痴」のムイシュキン公爵はこんなことを言ってしまう。

「実際、僕は、あなたが画題をとおっしゃった時、題材を差し上げるつもりがあったのです、それは、断頭機ギロチンが落ちて来る一分間前に、その板の上に横になろうとして、まだ刑場しおきばの上に立っている時の死刑囚の顔をお描きになるようにと」
 
それからしばらく、公爵はグロテスクな話しをするのでした。
 
 

 
 
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