卍(まんじ) 谷崎潤一郎(6)

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今日は谷崎潤一郎の「卍 まんじ」その6を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
いよいよこれでまんじ、完結なんです。ここから先は、もはや100%のネタバレになるので、まだ読み終えていない方はこちらからどうぞ。
 
 
ついに園子さんのだんなさんまで、綿貫の正体を知ることになってゆく。探偵まで雇って、事情を調べた。園子さんとだんなさんは、お互いにちゃんと話し合った。そのときに、だんなはこう言ってます。本文こうです。
 
 
  僕はお前がどうしても家出するいうのんなら、そら仕方ない思てる。けど、ほんまの僕の気持いうたら、憎いのんあの男だけで、お前も光子さんも可哀そうな目エにうたんや思てるねん。
 
 
ところがどうも、語り手で主人公の園子さんは、普通に見えて、かなり図太い性格みたいで、なんともややこしい修羅場が訪れようとしているのに、まだ光子さんとデートしたい駆け落ちして脱出したい、ということばっかり考えている。本文こうです。
 
 
  テーブルに俯伏うつぶしたなり、やんちゃなオみたいに泣いてましてん。もうこの場合「死ぬ」いうてやるのん一番ええ。それより外に方法ない。……私の頭の中にあるのんは、どないしたらこいから先も今までのように会うて行くこと出来るやろかと、そればっかりですのんで……
 
 
だんなさんは危険を察知していて、妻を軟禁する。園子さんはとにかく光子と駆け落ちがしたいので、水着で海にだけ出かけさせてくれと願い出る。そこから女二人で脱出をするんですが、ここからドラッグで仮想的に仮死状態にいたって、心中未遂を起こしてやろうと考えて、すさまじい展開があるんですが、(本文ではまた違う内容なんですが)恋人同士で二人で睡眠薬つかって心中の真似事をしてみるというのは、現実にありえない話では無い、充分ありえる話だなと思って、なんというかリアリティーとスピード感のある展開なんです。そして園子の夫がやって来て、ついに光子と夫が不倫におちいってしまう。本文こうですよ。
 
  
  私がいつも愛の相手外に求めてたように、夫にしたかて無意識のうちにそれ求めてたのんに違いあれしません。おまけに外の男みたいに芸者遊びするやとかお酒飲むやとかして、物足らなさたすちゅうこと知らん人だけに、なおのこと誘惑に陥りやすい状態にあったのんで、一旦そないなってしもたら、堰せき切った水みたいに、盲目的な情熱が意志や理性の力踏みにじくって燃え上って来て、光子さんより夫の方が十倍も二十倍も夢中になってしもたのんです。

 
恋愛感情とか、不正とかがこう、なぜかみごとにズレて流動してゆくんですよ。園子さんの感性とか企みとか方針とか関係性が、別の人に吸い取られてゆくんです。そこがほんとにこう、文学の魔法とでもいうのか、すごいんです。
 
 
悪いことせずに生きてきたつもりだった夫は、完全に不倫をやってしまった。その言い訳がなんともこう、ムチャなんです。そういうことしてきたことが無いから、こういうことを言うんだろうなと思いました。本文こうです。
 
 
  僕かてあれ夢と思いたい。……悪夢や思て忘れてしまいたい。……けど、僕、忘れること出来んようになってしもた。僕は始めて恋するもんの心を知った。
 
 
不倫は無かったというどころか、情熱のこもった本格の不倫だったとか言い出すんですよ。で、裏切った妻に対して、これ以上悲しませたくないとか言っちゃうんです。真面目な男が暴走すると、これはこれで恐ろしい。夫は園子と綿貫の間で交わされた不平等条約も破棄させたと、安心しきっている。しかし綿貫は綿貫で陰湿なスクープ記事を新聞社に売り払って園子と夫を追いつめたりする。
 
 
光子さんがブドウ酒と睡眠薬(あやしいドラッグ)を持ってきて、園子と夫に飲ませたときは、しびれました。片方を眠らせて、そこでどうも性的な遊びをしている可能性さえある。光子さんの悪女ぶりが凄まじいんですよ。これは漱石にもドストエフスキーにもない特徴で、とても惹きつけられる文学でした。
 
 
心中もののオチなんですけど、そこからぽーんと放り出されて生きのこってしまった、というのが、これはすごいもんを読んでしまったと思いました。
 
 

 
 
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 ここからは新サイトの「ゲーテ詩集」を紹介します。縦書き表示で読めますよ。
 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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