今日は夏目漱石の「彼岸過迄(2)風呂の後〈1〜7〉」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
自分は酒が飲めないので、ちょっと気になったんですが、漱石は意外と酒の話しを書かないんですよ。あのいかにも酔っ払いのハナシが出てきそうな「吾輩は猫である」であっても、ほんの7場面くらいしか酒の話しが出てこないですし、猫がビールを飲んで悪いことが起きるシーンまであって、酒の面白さはほとんど描写されない。坊っちゃんにも、酒はほとんど扱っていない。草枕では主人公が酒を飲むシーンがない。その時代の娯楽状況でいえばもっとたくさん出てきて良いんですけど、あんまり出ない。
調べてみると、「それから」では主人公の代助がよく飲むんです。今回の「彼岸過迄」冒頭では、こんな描写でした。
で、今夜は少し癪も手伝って、飲みたくもない麦酒をわざとポンポン抜いて、できるだけ快豁な気分を自分と誘って見た。けれどもいつまで経っても、ことさらに借着をして陽気がろうとする自覚が退かないので、しまいに下女を呼んで、そこいらを片づけさした。
主人公の敬太郎は酒があんまり飲めない。また作中で、こういう発言があって印象に残りました。
不思議ですね。酒を飲まない癖に冒険を愛するなんて。あらゆる冒険は酒に始まるんです。そうして女に終るんです
それで、どういうふうに話しがはじまるかというと、昼日中から、銭湯で休息をしまくっている話しなのです。本文こうです。
「僕の事はどうでも好いが、あなたはどうしたんです。役所は」と聞いた。すると森本は倦怠そうに浴槽の側に両肱を置いてその上に額を載せながら俯伏になったまま、
「役所は御休みです」と頭痛でもする人のように答えた。
「何で」
「何ででもないが、僕の方で御休みです」
敬太郎は思わず自分の同類を一人発見したような気がした。それでつい、「やっぱり休養ですか」と云うと、相手も「ええ休養です」と答えたなり元のとおり湯槽の側に突伏していた。
カフカの諸作とかドストエフスキーの『分身』にも似た、不思議な文章も記されています。本文こうです。
敬太郎はこの瘠せながら大した病気にも罹らないで、毎日新橋の停車場へ行く男について、平生から一種の好奇心を有っていた。彼はもう三十以上である。それでいまだに一人で下宿住居をして停車場へ通勤している。しかし停車場で何の係りをして、どんな事務を取扱っているのか、ついぞ当人に聞いた事もなければ、また向うから話した試もないので、敬太郎には一切がXである。
途中でさまざまに、奇妙な作中作であるかのような、挿話が挟み込まれるんです。これがひとつひとつなんだが印象深い。鈴の音を鳴らして山登りをする盲人の話し。門の閉じた深夜の寺にむかって、婚礼の時のような鮮やかな振袖を着て歩いて行った女。蛸たちに囲まれて、大ダコと決闘をしてピストルを連射したら、弾丸がするするすべって外れていった話し……。
敬太郎は大学を卒業したが仕事が無い。そうしてあらゆる仕事や奇妙な経験をし続けてきた男森本を、変に尊敬している。先達のほうでは冒険が得意なのだが、どうも学が無いから経験を生かすことができないと思っている。
敬太郎は、先輩にこう聞くんです。「あなたが今までやって来た生活のうちで、最も愉快だったのは何ですか」これについて彼が自分の経験を語ってくれるわけなんですが……。次回に続きます。漱石がもっとも愉快に感じたことは、なんだったのかなと思いました。正岡子規との交友の中になにかありそうです。
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幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。
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