

今日は中井正一の「聴衆0の講演会」を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
これなんだか妙に面白い随筆だったんですけど、まず第一文目から奇妙なんです。「夢のような終戦」と書いている。飢餓がいちばん過酷だった敗戦後の数年間のことを「夢のような」って書くんだ、すごいなあと思って、読んでみるとほんとになんと言えば良いのか「暗澹」とした時代に「夢」のことが書いてある。やりたいこと、文化的に言って価値の高いことに、中井正一が挑んでいる。自由に講演会を行って、表現と研究が好きなように出来る、そのことについて、中井はこう書いています。
昭和十二年に反戦論者の疑いで弾圧をうけてより、同じく十六年に自由の身となってより、二十一年までは、予防拘禁におびやかされ通したこの十年の後に、はじめて、あたりまえのことを自由に語れることは、瞳孔がしまるほどの眩めくような明るい軽いおもいであった。
中井は自身の仕事として「文化遺産を万人の手に、雨が降って土を崩しながらしみ透ってゆくようにしみわたってゆかなくてはならない。」と記している。ところがじっさいに講演会をやってみると、苦しい時代だったから、誰も聞きに来てくれない、という状況にいたった。時代が中井正一に追いついていない。
自由になったら、じつはとくに何もできず自分の能力の限界が明らかに見えてしまったって、けっこうな悪夢だと思うんですけど、中井正一はそのことを滑稽な事態のように、おもしろく記すんです。母親しか講演会に来てくれなかったとか、死ぬほど恥ずかしいことだと思うんですけど、そういうことを書いていて笑いました。すごい真面目なことだけを書いているのに、どうしてこんなに感情を動かされるんだろう、と思いました。この随筆の後半まで、なんとも浮き足立ってる印象が強くて、そこが気になるんです。中井は学者や知識人同士で理論や学問の「堅牢化」つまり深化をはかると同時に、広く一般大衆に、かんたんでわかりやすい言葉で、学問の重要なところを伝えねばならないと考えている。
大衆に受けないのは何故なのか、中井は真摯に探究するんです。知らない言葉に対する嫌悪感、というのを一つ指摘している。これって近代文学時代から、重版のかかる現代文学への変化にも通じていることだなと思いました。この一文が印象に残りました。
必ず大切なことは、他のことばでいいなおして、二度ずついってやると、はじめてうなずいてついて来るのである。
このあとの数行の指摘がすごかったです。例を出して言う。たとえ、ということをほんとうに真摯にやらないといけない。詳しくは本文をご覧ください。終戦から氏の最後の一文までの7年間、中井正一の随筆と思想はどう展開したんだろう、いつか知ってみたいと思いました。

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