三四郎 夏目漱石(12)

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今日は夏目漱石の「三四郎」その(12)を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
三四郎は次回で完結です。与次郎の仕切っている劇中劇が行われるわけですが、どうもピンとこない。劇の中身よりも、観客の様子や、ちょっとした批判がことこまかに描かれていて、100年前のツイッターでも読んでいる気分になりました。いや、ツイッターでは内心までは判然としないわけで、より緻密にこう、当時の人々の感覚が描かれていて、おもしろかったです。
 
 
三四郎は、蘇我入鹿がどうしたという演劇にはちっとも興味を惹かれなかったが、現実に見知った人々が観客席の、その群衆の中にあまたに居ることには大変に興味を持って、これを見ている。やはり現代で言うと、ツイッターでかつて愛読していた現代作家が、日常を日々そこに記しているのを興味深く見るような感じだろうなあ、と思いました。
 
 
物語には非常に感銘を受けるところがあるんだけれども、現実の対人関係に勝てることは無いわけで、気になっているクラスメイトとほんのちょっとでも良い交流ができれば、それは当人にとっては、優れた古典文学よりも濃い記憶になって残る。劇中劇の物足りなさよりも、人との結びつきのほうに意識が集中する、という描写は、おもしろいしかけだなと思いました。
 
 
なにかこう、現実の自分に関係があると思える方が、やはりピンとくるところがあるわけで、むかしロールプレイングゲームが大流行したのも、遊び手がこれを操作することで、遊び手が物語から感覚的に排除されにくい仕様というのが当時新しくて、人々を惹きつけたと言えるわけで、漱石はこう、設定をさまざまに工夫しながら、読み手と物語を結びつけるように描いているように思いました。
 
  
漱石は、シェイクスピアの『劇中劇』のことを考えつつ、この場面を描いていて、物語の内部にハムレットの演劇を持ち込んで、ハムレットの作中作の構造について言及しています。ここから先は、もうかなりのネタバレになるので、そういうのを好まない方はご注意ください。
 
 
この三四郎を読んでいて、どうしても考えるのは、漱石の親友であった正岡子規の家族構成についてなんです。子規は文学に夢中で生涯独身だった。その子規が『病床六尺』を書いてホトトギスを創刊して、漱石に最後の手紙を送って、やがて亡くなった。そのホトトギスで漱石は処女作を発表している。漱石の文学性は確実に子規によって形づくられたわけで、さらに言えば、作中に描かれている、結婚の問題や罪の意識というのも、子規への思いにしか、自分には思えないのです。井上ひさしの「父と暮せば」を想起するんですけれども、自分としては、漱石は正岡子規という気さくな幽霊がはっきりと見えていて、彼と対話をしながら、文学を構築していったように空想するんです。
 
 
美禰子も同じ演劇を見ていた。しかし三四郎はとくに話しかける機会も無く、その会場をあとにすることになった……。この、関わりを持てそうで持てないという状況が、どうにも美しい物語展開に思えました。第一章のいちばんはじめの物語と共鳴しています。
 
 
夜になるとひどく冷え込み、雨が降った。三四郎はその雨の音を聞きながら眠った。翌日、目が覚めると、風邪にやられており、それから美禰子がある男と結婚をする、という話を聞いた。
 
 
終盤で、三四郎は美禰子に逢いにゆく。原文で読んでみてください。
 
 
 女はややしばらく三四郎をながめたのち、聞きかねるほどのため息をかすかにもらした。やがて細い手を濃い眉の上に加えて言った。
「我はわがとがを知る。わが罪は常にわが前にあり」
 聞き取れないくらいな声であった。それを三四郎は明らかに聞き取った。三四郎と美禰子はかようにして別れた。
 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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