門(3) 夏目漱石

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今日は夏目漱石の『門』その3を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
哲学者で詩人のシモーヌヴェイユが、「この世界は、閉じられた門である。それは、障害物である。が、同時に、通り道でもある」と言ったらしいんですけど、どういう文脈で言ったのか、原典をぼくは見つけられなかったのでようわからんのですが、この漱石の「門」という小説は謎の多い小説で、題名を漱石本人がつけなかった、そうなんです。森田草平という漱石の弟子が頼まれて、小宮豊隆と一緒に悩んで、さいごランダム抽出まで用いて、題名を決めたそうです。
 
 
穏やかな時の流れる物語を展開させながら、書き手本人は、題名を決める間さえ無いほど忙しくしつつ、こんな豊かな物語を紡いでいった、というのが衝撃です。しかし、考えてみれば、漱石は題名にこだわらない人だな、と思います。「三四郎」なんて名前ですし。「それから」も凝った題名じゃ無い。
 
 
今回の宗助は、やはり作者の漱石にそっくりな気がします。なにせ時間が無い男なんです。平日はもうすべて仕事の時間になっている。たまにできた休みは、やりたいことがありすぎて、かえってなにもできずにじっと暮らしてまた仕事だけの日々になってしまう。
 
 
のどかな休日を描いた物語なんですが、作中に、伊藤博文暗殺された記事が登場します。それにたいする、登場人物たちのじつに平凡で、リアリティーのある、緩い反応というのが……、これぞ文学という感じがしました。他人ごとというわけでも無いんですけど、嘘や大げさという感じがまったくしない反応なんですよ。激動の時代に対して、人々の平凡すぎる日常というのが浮かびあがってきて、なんだかすごいんです。
 
 
ほんとにこう、なんで漱石は未来のことが判っちゃうんだよ、とうなり声をあげちゃったんですけど、漱石は旧満洲は物騒なところで、「何だか危険なような心持ちがしてならない」と言うんです。じっさい1909年から1945年まで、どんどんおそろしい状態になってゆくわけで、1910年に朝日新聞で漱石はこういうもんを書いて出せたんだなあ……。と驚きました。当時、検閲や出版差し止めはしょっちゅう起きていたわけなんですけど。この頃の発禁書は、こうなっています。
 
 
■ かつて発禁となった作品
 
1905年  島崎藤村「旧主人」
1909年 永井荷風「ふらんす物語」「祝杯」「歓楽」
1909年 森鴎外「魔睡」「ヰタ・セクスアリス」
1909年 トルストイ「人間生活」
 
 
名作といわれるものほぼ全部みたいな状態ですよ。この10年後くらいに「かわいい女子と寝て暮らそう」みたいな歌詞の歌がわいせつだ、と言われて発禁になっちゃったそうです。「かわいい女子と寝て暮らす」ってべつに普通じゃないかと思うんですけど。すっごい時代に、漱石はすっごいものを書いたんだなあーと、どうもまだこの100年前の世間がはっきりと見えてこないぼくには不思議な感じがしました。
 
 
宗助は、子どものおもちゃを何とはなしに買って帰って、意味なくちょっと遊んでみる。清おばあさんに笑われて、「これでも昔は子どもがあった」と宗助は、過去の事実をぽっと言っています。宗助夫婦には今こどもが居ないわけなんですが、どうもかつて宗助夫婦には子どもが生まれたらしい……。だが今いない。
 
 
小六が、旧満洲は危険だとか、旧満洲に行ってみたいとか言うのを読んでいて、漱石はたぶん、日清戦争を取材に行った子規のことを思い出して書いているんだろうなあと、思いました。
 
 

 
 
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 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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