門(2) 夏目漱石

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今日は夏目漱石の『門』その2を公開します。縦書き表示で全文読めますよ。
 
 
この物語の舞台は、崖の下の家なんです。崖の上じゃなくて、崖の下の宗助の物語です。本文にこう書いています。
 
 
  …………宗助のうちは横丁を突き当って、一番奥の左側で、すぐの崖下だから、多少陰気ではあるが、その代り通りからはもっとも隔っているだけに、まあ幾分か閑静だろうと云うので、細君と相談の上、とくにそこをえらんだのである。
 
 
第二章のドあたまの「そこに気のつかなかった宗助は」という書き出しで、あれっ? と思いました。そこにって、いったいどこのことなんだ? と、しばらく第一章の終わりを読み返していました。原文はこうなんです。
 
 
  そこに気のつかなかった宗助そうすけは、町のかどまで来て、切手と「敷島しきしま」を同じ店で買って、郵便だけはすぐ出したが、その足でまた同じ道を戻るのが何だか不足だったので、くわ煙草たばこけむを秋の日にゆらつかせながら、ぶらぶら歩いているうちに、どこか遠くへ行って、東京と云う所はこんな所だと云う印象をはっきり頭の中へ刻みつけて、そうしてそれを今日の日曜の土産みやげうちへ帰ってようと云う気になった。
  
 
これしかし、やっぱりわかりません。第一章の終盤で、宗助は、妻に急かされて、佐伯に手紙を書いて、郵便を出しに出かけていった。また第一章の終わりにも、唐突に指示代名詞がほうり込まれている文章があるんです。原文はこうです。
 
 
  「そりゃ兄さんも忙がしいには違なかろうけれども、僕もあれがきまらないと気がかりで落ちついて勉強もできないんだから」
 
 
ここに記された「あれ」というのが、じつはまったく前段に登場してきていない。それで、ああ、判ったぞと思いました。この「あれ」とか「そこに…………」からはじまる文体は、この小説の魅力の1つなんだろうなと思いました。
 
 
「門」という題名のこの本は、「それから」という作品が存在していることが前提になっている小説で、いわば「それからのそれから」を描いた物語なんです。直接こう、「それから」の後日談というわけじゃないんです。「それから」の主人公たちは、この「門」には一人も存在していません。けれども、物語としてはかなり繋がっている。どうつながっているかというと、パラレルに繋がっている。
 
 
この小説の文体は、ある前提とか暗黙の了解というのが本文の手前の余白のところに大きく存在していて、推理小説の犯人さがしや、トリックさがしみたいに、読者がその、「まだ記されていない謎」というのを掘り当ててゆくような、そういう書き方になっているようなんです。
 
 
写真で言うと、人々がみんな喜んでなにかをじーっと見ているのが写っているのだけれど、肝心の、人々が見ている先のモノがなんであるかは、その写真には映り込んでいない、というような作品に思えました。辞典は、或る人物の生の全体を俯瞰して表面的に記しているんですが、この小説は写真のようにある時間だけを切りとっている。それはごく普通のことなんですけど、その方法がきわ立っているのが、この「門」という小説だと思います。
 
 
作中で、トルストイの「復活」を描いた演劇の広告が、ほんのちょっとだけ出てきます。宗助は、都会の会社員らしく、平日はいそがしく働いている。休日になると、その自分がなんだか変に見えてくる……。あと、宗助の家の描写がなんか良かったです。「坊っちゃん」にでてきたきよというおばあさんがいたり、崖の上のお嬢さんがピアノを弾いていたりして、どうもすこぶる雰囲気が、良いんです。

 
 

 
 
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 幼かった頃の夢想のことを、ゲーテは「黄金の空想よ」と記します。ゲーテの詩には、神話的なものと理知的なものが混在していて、これが魅力のように思います。ゲーテはゲルマン神話と、とくにギリシャ神話の影響が色濃いようです。
 この詩集は生田春月が翻訳をした作品です。ゲーテは政治家としても活躍し、かのナポレオンからも尊敬されていた作家で、その言葉を詩で楽しめるというのは、なんだか嬉しいように思います。

  

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